光と色の話 第一部

光と色の話 第一部

第10回 反射面における照度と輝度の関係

はじめに

各種測光量の内で、身の周りの照明のみに限らずマシンビジョンにおいても重要で馴染みの深い、「照度」および「輝度」について、前々回と前回で個別に採り上げてそれらの性質について説明してきました。
今回は、反射面における照度と輝度の両者の関係について考えてみましょう。この関係は、ヒューマンビジョン、マシンビジョンを問わず、物体を照明して肉眼やカメラで観察するあらゆる場合に密接に関係してきます。
なお、この関係は、放射照度と放射輝度との関係、あるいはセンサー照度とセンサー輝度との関係についても全く同様です。

二次光源 としての反射面

「反射面」では、その面に向かって入射した光が(一部は吸収・透過され、残りが)反射するという現象が起こっています。大雑把に言えば、その面に(単位面積あたりに)どれだけの光束が入射しているかに着目したものが「照度」で、その面から(単位面積あたりに)どちらの方向にどれだけの光束を反射しているのかが「輝度」になります。つまり、反射面は「照度を受けて光る二次光源」と見做すことができ、反射面によって照度が輝度に変換されている、と考えることができます。
反射率が小さい場合には入射光束の殆どが吸収されてしまいますので、「光源」というイメージからは程遠くなってしまいますが、反射率がゼロでない限り理論的には「光源(二次光源)」として扱うことができます。

反射面における照度と光束発散度の関係

照度( E )の定義は単位面積( A [ m2 ] )あたりに入射する光束( φIN [ lm ] )であり、光束発散度( M )の定義は単位面積( A [ m2 ] )から発する光束( φOUT [ lm ] )でした。また、反射率( ρ )の定義は、入射光束( φIN )に対する反射光束光束( φOUT )の比で、特殊な場合を除いて一般的には ρ < 1 です。これらを数式で書くと

となります。これらより、照度 E と光束発散度 M とは、反射率 ρ を介して

M = ρE

の関係があることが分かります。※1

物体表面における反射の様子

光束発散度が対象とする光束は、光源面や反射面(二次光源面)に対向する半空間( 2π 空間)に向かってあらゆる方向へ進行する光束をひっくるめたものとなります。従って、光束発散度 M は私たちが見る反射面の「明るさ感」を直接示すものではありません。例えば、光沢性の反射面は、正反射方向から見ると明るく見えますが、それ以外の方向から見ると暗く見えます。私たちが見る、反射面(あるいは光源面)の「明るさ感」は、その面の配光特性に応じて、一般には観察する方向によって変わりますから、前回(第9回)にも述べましたように、「 輝度 L 」で評価することになります。
反射面の反射配光特性は、反射面の材質や表面状態によって大きく変化します。反射配光特性の代表的な例を図に示します。※2

均等拡散反射面における照度 E と 輝度 L の関係
・・・・・図 ( a )

ある光源が理想的な均等拡散反射面を照明しているとき、反射面の照度 E [ lx ] と その反射面の輝度 L [ cd / m2 ] の間には、輝度観察方向にかかわらず、次の式で表わされる重要な関係があります。※3

ただし、ρ は反射率※1です。

この式の意味は、以下のように説明されます。物体の特性が固定された場合、つまり、反射率 ρ を固定した場合は、輝度 L は照度 E に比例します。全く当たり前のことではありますが、照度 E が大きいほど(明るく照明するほど)それだけ反射面の輝度 L は大きくなる(明るく見える)、ということになります。
次に、照明光の照度 E を固定して考えた場合は、反射面の反射率が高い( ρ の値が大きい) ほど輝度 L は大きくなる(明るく見える)ということで、これもまた全く当たり前のことです。 前回(第9回)にも説明しましたように、均等拡散反射面の場合は、観察方向によらず輝度は一定となりますので上記のように、照度と輝度の関係は、照明方向や観察方向に関係なく非常に単純明快な形になります。

このように、均等拡散反射面は「反射」という現象の物理的本質を見事に単純化しているということができると思います。このような性質から、均等拡散反射面は、各種の測光や測色の基準特性として位置付けられており、測定器の校正に活用されています。※4

一般の反射面(非均等拡散反射面)における 照度 E と 輝度 L の関係
・・・・図 ( b )

通常の反射面の場合は、図 ( a ) の均等拡散反射面のような“きれいな”特性( I ( θ ) = I0 cos θ で表わされる)の反射ではなく、図 ( b ) に示すように、正反射方向への光度が大きく、正反射方向から外れるに従って光度が小さくなっていくのが一般的です。光沢性が増すほど、正反射方向への光度が突出して大きくなって行き、その究極は図 ( c ) のような鏡面反射となります。
一般の物体の反射面での照度 E と輝度 L の関係は、均等拡散反射面のような一律的単純な関係ではなく、反射面の特性(材質や表面状態)毎に異なり、また方向に依存して変動する関係にあります。

拡散反射配光特性の基準

このような一般的な拡散反射の配光特性を評価するときの基準特性として完全拡散反射面(反射率が 100 % の均等拡散反射面)が使われます。
或る方向( θ 方向 )について、完全拡散面の輝度 L PD(観察方向に関わらず一定)に対する試料面の輝度 L ( θ r ) の比を「輝度率」といい、量記号は通常には β が使われます。( PD = Perfect Diffuser )
完全拡散反射面では、反射の方向(反射角 θ r )によらず輝度は一定( L PD )ですが、一般の反射面では反射角 θ r に依存して変化します。

(上図参照)これより

と書けますから、或る反射面の反射角 θ r 方向の輝度 L ( θ r ) は、基準の完全拡散反射面の輝度( L PD )の β ( θ r ) 倍となります。
光沢性の強い反射面では、正反射方向の輝度は完全拡散反射面よりもずっと高く( β > > 1 )となります。

マシンビジョンにおける情報抽出

以上の説明は、簡単のために入射角 θ i を固定して話を進めてきましたが、入射角 θ i が変化すると、(平面反射面では)当然同じ角度だけ正反射方向も変化します。従って、輝度率 β は、一般には入射角 θ i および 観察方向(すなわち反射角) θ r の両者の関数になります。

β β ( θ i , θ r )

少し込み入った話になってしまいましたが、一般の物体ではその反射面の特性によって、どの方向から照明するのか( θ i ) 、また、どの方向から観察するのか( θ r )によって、観察される「明るさ」は様々に変わることになります。
マシンビジョンでは、試料に印刷された文字や模様の異常、試料表面の汚れやキズなどを検査する場合、正常品の反射配光特性と異常品の反射配光特性の「差異」ができるだけ大きくなるような照明角度( θ i )と観察(撮像)角度( θ r )の組合せを設定してやり、その状態で試料を撮像・解析することによって、信号対雑音比( S / N )の高い異常情報を抽出取得することが重要な技術の一つになる訳です。

注釈
※1 反射率 ρ について

照度 E と光束発散度 M との関係が反射率 ρ で結び付けられるのは、反射率 ρ があらゆる方向への反射光を含んだものだからと言えます。
「反射」というコトバが一般会話でも使われるため、「反射率」という用語は、技術用語として厳密な定義が存在するにも関わらず、一般会話用語の延長線上の感覚で、情緒的・曖昧に使用されがちです。例えば、ある試料面をある方向から撮影する場合は、カメラの撮像に寄与する光束はカメラのレンズの方向へ反射する光束だけが対象になりますが、このような場合にも、試料面の反射率が高い・低いという言い方がされることがしばしばあります。
『反射率』は厳密には、物体面への「全」入射光束に対する、「全」反射光束として定義されます。すなわち、反射面であらゆる方向に反射される(正反射束も拡散反射束も全てひっくるめた)全ての反射光束を対象としています。
上記のカメラでの撮影などの場合は、正確には、「立体角反射率」というのが正しい言い方になります。つまり、反射面とカメラの位置関係およびレンズ口径で決まる立体角内に 含まれる反射光束が評価対象であって、反射面が完全拡散反射面の場合の 反射光束に対する試料反射面での反射光束の比が「立体角反射率」です。
( JIS Z 8113 :1998【04062】【04072】参照)

※2 配光特性の図示方法・・・・・“光度”配光特性図 と “輝度”配光特性図

光源や反射面の配光特性の表現は、多くの場合は、光度(単位立体角当りの光束)の配光角度依存性で表現されます。配光特性は、光を発する点から「どの方向へどれだけの光束(エネルギー)を放出しているか」を示す目的で表示することが多いため、「光度」で表現する訳です。一方、輝度で配光特性が表現されることも偶にあります。この場合は、発光面(光源や反射面)を見る方向(角度)によってどれだけの「明るさ」に見えるか、を問題にする時です。同じ光源(反射面)でも、光度で表現する場合と輝度で表現する場合では、一見したところ全く様子が異なりますので注意が必要です。

輝度の定義は「見かけの単位面積当りの光度」でした。反射面の着目しているエリアの面積を A とすると、斜め θ 方向から見た見かけの面積は、A ・ cos θ となりますから、その方向への光度を A ・ cos θ で割ったものが輝度となります。
均等拡散面の場合の光度配光特性は、図 ( a1 ) のような特性で I ( θ ) = I0 ・ cos θ I0 は反射面の法線方向の光度値 ) と表記されますから、 θ 方向の輝度 L ( θ ) は、

となり、その面を真正面から見た輝度も、斜め方向から見た輝度も変わらない(同じ明るさに見える)ということになります。すなわち、これ(輝度配光特性)を図示すると、図 ( a2 ) のようになります。

※3 均等拡散反射面における照度 E と 輝度 L の関係

反射面を照度Eで照明している場合を考えます。
この反射面の着目エリア( 面積 A [ m2 ] )への入射光束を φ IN [ lm ] と書くと、照度 E [ lx ] は

と書けます。この光束 φ IN [ lm ] が(一部吸収を受けて、残りが)反射された結果が反射光となります。着目エリア( 面積 A [ m2 ] )からの反射光の全光束をφ OUT [ lm ] と書くと、反射率 ρ を介して

φOUT = ρφIN

という関係があります。

理想的な均等拡散反射面の場合は、面を照明する角度に関係なく、拡散反射は図( a )に示すようなきれいな球形の配光特性を示します。この配光特性図は、反射面の法線を含む平面による断面図です。実際には法線を軸とした回転対称になっています。つまり、均等拡散反射面の光度配光特性は円周方向( 角度 ε 方向 )には変化せず、法線からの角度 θ のみによって変化し、

I θ ) = I0 ・ cos θ

と記述されます。
今、反射面上の点 O を中心とする半径 r の仮想球面を考えます。点 O から θ 方向の微小角 d θ の範囲が仮想の球面を切り取るエリアは図の薄茶色で示した輪帯になります。(均等拡散反射面ではこの輪帯を通過する光束の密度は均一になっています。)この輪帯の面積を dS とすると、

dS = ( 2πr・sinθ )・( r ) = 2π r 2・sinθ

ですから、この輪帯の立体角

となります。
これより、均等拡散反射面の反射全光束 φOUT は次のように計算されます。

つまり、均等拡散反射面の法線方向の光度 I0 は、全反射光束 φOUTπ で割った値になります。
ところで、この均等拡散反射面で反射された反射光束を角度 θ 方向から観察したときの輝度 L ( θ ) は

となり、角度 θ に依存せず一定となります。つまり、均等拡散面の光度 I ( θ ) の角度依存性分 cos θ と見かけの面積の角度依存成分 cos θ が相殺する結果、観察方向 θ に関係なく輝度は一定となる訳です。
これらの関係式から

となり、均等拡散反射面の輝度 L とその面を照らす照度 E の間には、照明方向にも観察方向にも関係の無い

という非常に簡単でかつ重要な関係式が導き出されます。

※4 標準白色反射板

分光反射率が対象波長域全般に亘って一定で、かつ 90数% 以上の均等拡散反射面を標準白色反射板と言い、輝度計や測色計の校正に使用されています。

反射面における照度と輝度の関係

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第10回 反射面における照度と輝度の関係

はじめに

各種測光量の内で、身の周りの照明のみに限らずマシンビジョンにおいても重要で馴染みの深い、「照度」および「輝度」について、前々回と前回で個別に採り上げてそれらの性質について説明してきました。
今回は、反射面における照度と輝度の両者の関係について考えてみましょう。この関係は、ヒューマンビジョン、マシンビジョンを問わず、物体を照明して肉眼やカメラで観察するあらゆる場合に密接に関係してきます。
なお、この関係は、放射照度と放射輝度との関係、あるいはセンサー照度とセンサー輝度との関係についても全く同様です。

二次光源 としての反射面

「反射面」では、その面に向かって入射した光が(一部は吸収・透過され、残りが)反射するという現象が起こっています。大雑把に言えば、その面に(単位面積あたりに)どれだけの光束が入射しているかに着目したものが「照度」で、その面から(単位面積あたりに)どちらの方向にどれだけの光束を反射しているのかが「輝度」になります。つまり、反射面は「照度を受けて光る二次光源」と見做すことができ、反射面によって照度が輝度に変換されている、と考えることができます。
反射率が小さい場合には入射光束の殆どが吸収されてしまいますので、「光源」というイメージからは程遠くなってしまいますが、反射率がゼロでない限り理論的には「光源(二次光源)」として扱うことができます。

反射面における照度と光束発散度の関係

照度( E )の定義は単位面積( A [ m2 ] )あたりに入射する光束( φIN [ lm ] )であり、光束発散度( M )の定義は単位面積( A [ m2 ] )から発する光束( φOUT [ lm ] )でした。また、反射率( ρ )の定義は、入射光束( φIN )に対する反射光束光束( φOUT )の比で、特殊な場合を除いて一般的には ρ < 1 です。これらを数式で書くと

となります。これらより、照度 E と光束発散度 M とは、反射率 ρ を介して

M = ρE

の関係があることが分かります。※1

物体表面における反射の様子

光束発散度が対象とする光束は、光源面や反射面(二次光源面)に対向する半空間( 2π 空間)に向かってあらゆる方向へ進行する光束をひっくるめたものとなります。従って、光束発散度 M は私たちが見る反射面の「明るさ感」を直接示すものではありません。例えば、光沢性の反射面は、正反射方向から見ると明るく見えますが、それ以外の方向から見ると暗く見えます。私たちが見る、反射面(あるいは光源面)の「明るさ感」は、その面の配光特性に応じて、一般には観察する方向によって変わりますから、前回(第9回)にも述べましたように、「 輝度 L 」で評価することになります。
反射面の反射配光特性は、反射面の材質や表面状態によって大きく変化します。反射配光特性の代表的な例を図に示します。※2

均等拡散反射面における照度 E と 輝度 L の関係
・・・・・図 ( a )

ある光源が理想的な均等拡散反射面を照明しているとき、反射面の照度 E [ lx ] と その反射面の輝度 L [ cd / m2 ] の間には、輝度観察方向にかかわらず、次の式で表わされる重要な関係があります。※3

ただし、ρ は反射率※1です。

この式の意味は、以下のように説明されます。物体の特性が固定された場合、つまり、反射率 ρ を固定した場合は、輝度 L は照度 E に比例します。全く当たり前のことではありますが、照度 E が大きいほど(明るく照明するほど)それだけ反射面の輝度 L は大きくなる(明るく見える)、ということになります。
次に、照明光の照度 E を固定して考えた場合は、反射面の反射率が高い( ρ の値が大きい) ほど輝度 L は大きくなる(明るく見える)ということで、これもまた全く当たり前のことです。 前回(第9回)にも説明しましたように、均等拡散反射面の場合は、観察方向によらず輝度は一定となりますので上記のように、照度と輝度の関係は、照明方向や観察方向に関係なく非常に単純明快な形になります。

このように、均等拡散反射面は「反射」という現象の物理的本質を見事に単純化しているということができると思います。このような性質から、均等拡散反射面は、各種の測光や測色の基準特性として位置付けられており、測定器の校正に活用されています。※4

一般の反射面(非均等拡散反射面)における 照度 E と 輝度 L の関係
・・・・図 ( b )

通常の反射面の場合は、図 ( a ) の均等拡散反射面のような“きれいな”特性( I ( θ ) = I0 cos θ で表わされる)の反射ではなく、図 ( b ) に示すように、正反射方向への光度が大きく、正反射方向から外れるに従って光度が小さくなっていくのが一般的です。光沢性が増すほど、正反射方向への光度が突出して大きくなって行き、その究極は図 ( c ) のような鏡面反射となります。
一般の物体の反射面での照度 E と輝度 L の関係は、均等拡散反射面のような一律的単純な関係ではなく、反射面の特性(材質や表面状態)毎に異なり、また方向に依存して変動する関係にあります。

拡散反射配光特性の基準

このような一般的な拡散反射の配光特性を評価するときの基準特性として完全拡散反射面(反射率が 100 % の均等拡散反射面)が使われます。
或る方向( θ 方向 )について、完全拡散面の輝度 L PD(観察方向に関わらず一定)に対する試料面の輝度 L ( θ r ) の比を「輝度率」といい、量記号は通常には β が使われます。( PD = Perfect Diffuser )
完全拡散反射面では、反射の方向(反射角 θ r )によらず輝度は一定( L PD )ですが、一般の反射面では反射角 θ r に依存して変化します。

(上図参照)これより

と書けますから、或る反射面の反射角 θ r 方向の輝度 L ( θ r ) は、基準の完全拡散反射面の輝度( L PD )の β ( θ r ) 倍となります。
光沢性の強い反射面では、正反射方向の輝度は完全拡散反射面よりもずっと高く( β > > 1 )となります。

マシンビジョンにおける情報抽出

以上の説明は、簡単のために入射角 θ i を固定して話を進めてきましたが、入射角 θ i が変化すると、(平面反射面では)当然同じ角度だけ正反射方向も変化します。従って、輝度率 β は、一般には入射角 θ i および 観察方向(すなわち反射角) θ r の両者の関数になります。

β β ( θ i , θ r )

少し込み入った話になってしまいましたが、一般の物体ではその反射面の特性によって、どの方向から照明するのか( θ i ) 、また、どの方向から観察するのか( θ r )によって、観察される「明るさ」は様々に変わることになります。
マシンビジョンでは、試料に印刷された文字や模様の異常、試料表面の汚れやキズなどを検査する場合、正常品の反射配光特性と異常品の反射配光特性の「差異」ができるだけ大きくなるような照明角度( θ i )と観察(撮像)角度( θ r )の組合せを設定してやり、その状態で試料を撮像・解析することによって、信号対雑音比( S / N )の高い異常情報を抽出取得することが重要な技術の一つになる訳です。

注釈
※1 反射率 ρ について

照度 E と光束発散度 M との関係が反射率 ρ で結び付けられるのは、反射率 ρ があらゆる方向への反射光を含んだものだからと言えます。
「反射」というコトバが一般会話でも使われるため、「反射率」という用語は、技術用語として厳密な定義が存在するにも関わらず、一般会話用語の延長線上の感覚で、情緒的・曖昧に使用されがちです。例えば、ある試料面をある方向から撮影する場合は、カメラの撮像に寄与する光束はカメラのレンズの方向へ反射する光束だけが対象になりますが、このような場合にも、試料面の反射率が高い・低いという言い方がされることがしばしばあります。
『反射率』は厳密には、物体面への「全」入射光束に対する、「全」反射光束として定義されます。すなわち、反射面であらゆる方向に反射される(正反射束も拡散反射束も全てひっくるめた)全ての反射光束を対象としています。
上記のカメラでの撮影などの場合は、正確には、「立体角反射率」というのが正しい言い方になります。つまり、反射面とカメラの位置関係およびレンズ口径で決まる立体角内に 含まれる反射光束が評価対象であって、反射面が完全拡散反射面の場合の 反射光束に対する試料反射面での反射光束の比が「立体角反射率」です。
( JIS Z 8113 :1998【04062】【04072】参照)

※2 配光特性の図示方法・・・・・“光度”配光特性図 と “輝度”配光特性図

光源や反射面の配光特性の表現は、多くの場合は、光度(単位立体角当りの光束)の配光角度依存性で表現されます。配光特性は、光を発する点から「どの方向へどれだけの光束(エネルギー)を放出しているか」を示す目的で表示することが多いため、「光度」で表現する訳です。一方、輝度で配光特性が表現されることも偶にあります。この場合は、発光面(光源や反射面)を見る方向(角度)によってどれだけの「明るさ」に見えるか、を問題にする時です。同じ光源(反射面)でも、光度で表現する場合と輝度で表現する場合では、一見したところ全く様子が異なりますので注意が必要です。

輝度の定義は「見かけの単位面積当りの光度」でした。反射面の着目しているエリアの面積を A とすると、斜め θ 方向から見た見かけの面積は、A ・ cos θ となりますから、その方向への光度を A ・ cos θ で割ったものが輝度となります。
均等拡散面の場合の光度配光特性は、図 ( a1 ) のような特性で I ( θ ) = I0 ・ cos θ I0 は反射面の法線方向の光度値 ) と表記されますから、 θ 方向の輝度 L ( θ ) は、

となり、その面を真正面から見た輝度も、斜め方向から見た輝度も変わらない(同じ明るさに見える)ということになります。すなわち、これ(輝度配光特性)を図示すると、図 ( a2 ) のようになります。

※3 均等拡散反射面における照度 E と 輝度 L の関係

反射面を照度Eで照明している場合を考えます。
この反射面の着目エリア( 面積 A [ m2 ] )への入射光束を φ IN [ lm ] と書くと、照度 E [ lx ] は

と書けます。この光束 φ IN [ lm ] が(一部吸収を受けて、残りが)反射された結果が反射光となります。着目エリア( 面積 A [ m2 ] )からの反射光の全光束をφ OUT [ lm ] と書くと、反射率 ρ を介して

φOUT = ρφIN

という関係があります。

理想的な均等拡散反射面の場合は、面を照明する角度に関係なく、拡散反射は図( a )に示すようなきれいな球形の配光特性を示します。この配光特性図は、反射面の法線を含む平面による断面図です。実際には法線を軸とした回転対称になっています。つまり、均等拡散反射面の光度配光特性は円周方向( 角度 ε 方向 )には変化せず、法線からの角度 θ のみによって変化し、

I θ ) = I0 ・ cos θ

と記述されます。
今、反射面上の点 O を中心とする半径 r の仮想球面を考えます。点 O から θ 方向の微小角 d θ の範囲が仮想の球面を切り取るエリアは図の薄茶色で示した輪帯になります。(均等拡散反射面ではこの輪帯を通過する光束の密度は均一になっています。)この輪帯の面積を dS とすると、

dS = ( 2πr・sinθ )・( r ) = 2π r 2・sinθ

ですから、この輪帯の立体角

となります。
これより、均等拡散反射面の反射全光束 φOUT は次のように計算されます。

つまり、均等拡散反射面の法線方向の光度 I0 は、全反射光束 φOUTπ で割った値になります。
ところで、この均等拡散反射面で反射された反射光束を角度 θ 方向から観察したときの輝度 L ( θ ) は

となり、角度 θ に依存せず一定となります。つまり、均等拡散面の光度 I ( θ ) の角度依存性分 cos θ と見かけの面積の角度依存成分 cos θ が相殺する結果、観察方向 θ に関係なく輝度は一定となる訳です。
これらの関係式から

となり、均等拡散反射面の輝度 L とその面を照らす照度 E の間には、照明方向にも観察方向にも関係の無い

という非常に簡単でかつ重要な関係式が導き出されます。

※4 標準白色反射板

分光反射率が対象波長域全般に亘って一定で、かつ 90数% 以上の均等拡散反射面を標準白色反射板と言い、輝度計や測色計の校正に使用されています。

反射面における照度と輝度の関係

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第10回 反射面における照度と輝度の関係

はじめに

各種測光量の内で、身の周りの照明のみに限らずマシンビジョンにおいても重要で馴染みの深い、「照度」および「輝度」について、前々回と前回で個別に採り上げてそれらの性質について説明してきました。
今回は、反射面における照度と輝度の両者の関係について考えてみましょう。この関係は、ヒューマンビジョン、マシンビジョンを問わず、物体を照明して肉眼やカメラで観察するあらゆる場合に密接に関係してきます。
なお、この関係は、放射照度と放射輝度との関係、あるいはセンサー照度とセンサー輝度との関係についても全く同様です。

二次光源 としての反射面

「反射面」では、その面に向かって入射した光が(一部は吸収・透過され、残りが)反射するという現象が起こっています。大雑把に言えば、その面に(単位面積あたりに)どれだけの光束が入射しているかに着目したものが「照度」で、その面から(単位面積あたりに)どちらの方向にどれだけの光束を反射しているのかが「輝度」になります。つまり、反射面は「照度を受けて光る二次光源」と見做すことができ、反射面によって照度が輝度に変換されている、と考えることができます。
反射率が小さい場合には入射光束の殆どが吸収されてしまいますので、「光源」というイメージからは程遠くなってしまいますが、反射率がゼロでない限り理論的には「光源(二次光源)」として扱うことができます。

反射面における照度と光束発散度の関係

照度( E )の定義は単位面積( A [ m2 ] )あたりに入射する光束( φIN [ lm ] )であり、光束発散度( M )の定義は単位面積( A [ m2 ] )から発する光束( φOUT [ lm ] )でした。また、反射率( ρ )の定義は、入射光束( φIN )に対する反射光束光束( φOUT )の比で、特殊な場合を除いて一般的には ρ < 1 です。これらを数式で書くと

となります。これらより、照度 E と光束発散度 M とは、反射率 ρ を介して

M = ρE

の関係があることが分かります。※1

物体表面における反射の様子

光束発散度が対象とする光束は、光源面や反射面(二次光源面)に対向する半空間( 2π 空間)に向かってあらゆる方向へ進行する光束をひっくるめたものとなります。従って、光束発散度 M は私たちが見る反射面の「明るさ感」を直接示すものではありません。例えば、光沢性の反射面は、正反射方向から見ると明るく見えますが、それ以外の方向から見ると暗く見えます。私たちが見る、反射面(あるいは光源面)の「明るさ感」は、その面の配光特性に応じて、一般には観察する方向によって変わりますから、前回(第9回)にも述べましたように、「 輝度 L 」で評価することになります。
反射面の反射配光特性は、反射面の材質や表面状態によって大きく変化します。反射配光特性の代表的な例を図に示します。※2

均等拡散反射面における照度 E と 輝度 L の関係
・・・・・図 ( a )

ある光源が理想的な均等拡散反射面を照明しているとき、反射面の照度 E [ lx ] と その反射面の輝度 L [ cd / m2 ] の間には、輝度観察方向にかかわらず、次の式で表わされる重要な関係があります。※3

ただし、ρ は反射率※1です。

この式の意味は、以下のように説明されます。物体の特性が固定された場合、つまり、反射率 ρ を固定した場合は、輝度 L は照度 E に比例します。全く当たり前のことではありますが、照度 E が大きいほど(明るく照明するほど)それだけ反射面の輝度 L は大きくなる(明るく見える)、ということになります。
次に、照明光の照度 E を固定して考えた場合は、反射面の反射率が高い( ρ の値が大きい) ほど輝度 L は大きくなる(明るく見える)ということで、これもまた全く当たり前のことです。 前回(第9回)にも説明しましたように、均等拡散反射面の場合は、観察方向によらず輝度は一定となりますので上記のように、照度と輝度の関係は、照明方向や観察方向に関係なく非常に単純明快な形になります。

このように、均等拡散反射面は「反射」という現象の物理的本質を見事に単純化しているということができると思います。このような性質から、均等拡散反射面は、各種の測光や測色の基準特性として位置付けられており、測定器の校正に活用されています。※4

一般の反射面(非均等拡散反射面)における 照度 E と 輝度 L の関係
・・・・図 ( b )

通常の反射面の場合は、図 ( a ) の均等拡散反射面のような“きれいな”特性( I ( θ ) = I0 cos θ で表わされる)の反射ではなく、図 ( b ) に示すように、正反射方向への光度が大きく、正反射方向から外れるに従って光度が小さくなっていくのが一般的です。光沢性が増すほど、正反射方向への光度が突出して大きくなって行き、その究極は図 ( c ) のような鏡面反射となります。
一般の物体の反射面での照度 E と輝度 L の関係は、均等拡散反射面のような一律的単純な関係ではなく、反射面の特性(材質や表面状態)毎に異なり、また方向に依存して変動する関係にあります。

拡散反射配光特性の基準

このような一般的な拡散反射の配光特性を評価するときの基準特性として完全拡散反射面(反射率が 100 % の均等拡散反射面)が使われます。
或る方向( θ 方向 )について、完全拡散面の輝度 L PD(観察方向に関わらず一定)に対する試料面の輝度 L ( θ r ) の比を「輝度率」といい、量記号は通常には β が使われます。( PD = Perfect Diffuser )
完全拡散反射面では、反射の方向(反射角 θ r )によらず輝度は一定( L PD )ですが、一般の反射面では反射角 θ r に依存して変化します。

(上図参照)これより

と書けますから、或る反射面の反射角 θ r 方向の輝度 L ( θ r ) は、基準の完全拡散反射面の輝度( L PD )の β ( θ r ) 倍となります。
光沢性の強い反射面では、正反射方向の輝度は完全拡散反射面よりもずっと高く( β > > 1 )となります。

マシンビジョンにおける情報抽出

以上の説明は、簡単のために入射角 θ i を固定して話を進めてきましたが、入射角 θ i が変化すると、(平面反射面では)当然同じ角度だけ正反射方向も変化します。従って、輝度率 β は、一般には入射角 θ i および 観察方向(すなわち反射角) θ r の両者の関数になります。

β β ( θ i , θ r )

少し込み入った話になってしまいましたが、一般の物体ではその反射面の特性によって、どの方向から照明するのか( θ i ) 、また、どの方向から観察するのか( θ r )によって、観察される「明るさ」は様々に変わることになります。
マシンビジョンでは、試料に印刷された文字や模様の異常、試料表面の汚れやキズなどを検査する場合、正常品の反射配光特性と異常品の反射配光特性の「差異」ができるだけ大きくなるような照明角度( θ i )と観察(撮像)角度( θ r )の組合せを設定してやり、その状態で試料を撮像・解析することによって、信号対雑音比( S / N )の高い異常情報を抽出取得することが重要な技術の一つになる訳です。

注釈
※1 反射率 ρ について

照度 E と光束発散度 M との関係が反射率 ρ で結び付けられるのは、反射率 ρ があらゆる方向への反射光を含んだものだからと言えます。
「反射」というコトバが一般会話でも使われるため、「反射率」という用語は、技術用語として厳密な定義が存在するにも関わらず、一般会話用語の延長線上の感覚で、情緒的・曖昧に使用されがちです。例えば、ある試料面をある方向から撮影する場合は、カメラの撮像に寄与する光束はカメラのレンズの方向へ反射する光束だけが対象になりますが、このような場合にも、試料面の反射率が高い・低いという言い方がされることがしばしばあります。
『反射率』は厳密には、物体面への「全」入射光束に対する、「全」反射光束として定義されます。すなわち、反射面であらゆる方向に反射される(正反射束も拡散反射束も全てひっくるめた)全ての反射光束を対象としています。
上記のカメラでの撮影などの場合は、正確には、「立体角反射率」というのが正しい言い方になります。つまり、反射面とカメラの位置関係およびレンズ口径で決まる立体角内に 含まれる反射光束が評価対象であって、反射面が完全拡散反射面の場合の 反射光束に対する試料反射面での反射光束の比が「立体角反射率」です。
( JIS Z 8113 :1998【04062】【04072】参照)

※2 配光特性の図示方法・・・・・“光度”配光特性図 と “輝度”配光特性図

光源や反射面の配光特性の表現は、多くの場合は、光度(単位立体角当りの光束)の配光角度依存性で表現されます。配光特性は、光を発する点から「どの方向へどれだけの光束(エネルギー)を放出しているか」を示す目的で表示することが多いため、「光度」で表現する訳です。一方、輝度で配光特性が表現されることも偶にあります。この場合は、発光面(光源や反射面)を見る方向(角度)によってどれだけの「明るさ」に見えるか、を問題にする時です。同じ光源(反射面)でも、光度で表現する場合と輝度で表現する場合では、一見したところ全く様子が異なりますので注意が必要です。

輝度の定義は「見かけの単位面積当りの光度」でした。反射面の着目しているエリアの面積を A とすると、斜め θ 方向から見た見かけの面積は、A ・ cos θ となりますから、その方向への光度を A ・ cos θ で割ったものが輝度となります。
均等拡散面の場合の光度配光特性は、図 ( a1 ) のような特性で I ( θ ) = I0 ・ cos θ I0 は反射面の法線方向の光度値 ) と表記されますから、 θ 方向の輝度 L ( θ ) は、

となり、その面を真正面から見た輝度も、斜め方向から見た輝度も変わらない(同じ明るさに見える)ということになります。すなわち、これ(輝度配光特性)を図示すると、図 ( a2 ) のようになります。

※3 均等拡散反射面における照度 E と 輝度 L の関係

反射面を照度Eで照明している場合を考えます。
この反射面の着目エリア( 面積 A [ m2 ] )への入射光束を φ IN [ lm ] と書くと、照度 E [ lx ] は

と書けます。この光束 φ IN [ lm ] が(一部吸収を受けて、残りが)反射された結果が反射光となります。着目エリア( 面積 A [ m2 ] )からの反射光の全光束をφ OUT [ lm ] と書くと、反射率 ρ を介して

φOUT = ρφIN

という関係があります。

理想的な均等拡散反射面の場合は、面を照明する角度に関係なく、拡散反射は図( a )に示すようなきれいな球形の配光特性を示します。この配光特性図は、反射面の法線を含む平面による断面図です。実際には法線を軸とした回転対称になっています。つまり、均等拡散反射面の光度配光特性は円周方向( 角度 ε 方向 )には変化せず、法線からの角度 θ のみによって変化し、

I θ ) = I0 ・ cos θ

と記述されます。
今、反射面上の点 O を中心とする半径 r の仮想球面を考えます。点 O から θ 方向の微小角 d θ の範囲が仮想の球面を切り取るエリアは図の薄茶色で示した輪帯になります。(均等拡散反射面ではこの輪帯を通過する光束の密度は均一になっています。)この輪帯の面積を dS とすると、

dS = ( 2πr・sinθ )・( r ) = 2π r 2・sinθ

ですから、この輪帯の立体角

となります。
これより、均等拡散反射面の反射全光束 φOUT は次のように計算されます。

つまり、均等拡散反射面の法線方向の光度 I0 は、全反射光束 φOUTπ で割った値になります。
ところで、この均等拡散反射面で反射された反射光束を角度 θ 方向から観察したときの輝度 L ( θ ) は

となり、角度 θ に依存せず一定となります。つまり、均等拡散面の光度 I ( θ ) の角度依存性分 cos θ と見かけの面積の角度依存成分 cos θ が相殺する結果、観察方向 θ に関係なく輝度は一定となる訳です。
これらの関係式から

となり、均等拡散反射面の輝度 L とその面を照らす照度 E の間には、照明方向にも観察方向にも関係の無い

という非常に簡単でかつ重要な関係式が導き出されます。

※4 標準白色反射板

分光反射率が対象波長域全般に亘って一定で、かつ 90数% 以上の均等拡散反射面を標準白色反射板と言い、輝度計や測色計の校正に使用されています。

反射面における照度と輝度の関係

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