光と色の話 第二部

光と色の話 第二部

第3回 色フィルタの厚みと分光透過率

前回(第2回:光学フィルタ)の註釈≪※2≫で触れましたように、市販の色ガラスフィルタやアクリルフィルタ等の標準品は通常厚みが(例えば厚さ2.5mmに) 固定されており、含有色素の濃度を何段階かに分けることによって、同一色系統のフィルタ群(例えばグリーンフィルタ群)内で何種類かの透過率レベルのものが揃えられています。

フィルタの分光透過率特性に対する要求が厳しい場合は、標準品の濃度系列の中間の濃度になり、要求にピッタリ合致するものが得られないという場合も出てきます。このような場合、フィルタを研磨して厚みを薄くすることによって要求の特性に極力合わせ込むということが行われる場合があります。

この場合、どのフィルタをどの程度厚みを薄くすると良いのか、ということになるのですが、闇雲に試行錯誤すると時間もコストもかかってしまいますので、或る程度理論的に見通しを立てて行うことが求められます。

均質な半透明媒質中での光の減衰

光が均質な半透明の媒質中を進行する場合、(媒質による吸収および散乱により)単位距離を進行する間に一定比率分だけ減衰していくことになります。この減衰の比率が吸収係数と呼ばれ、一般に媒質の種類毎に、また光の波長毎に異なる値をとります。今、媒質内の或る位置での分光放射束を FA ( λ ) [ W/nm ] とし、その位置から、媒質によって吸収を受けながら距離 x だけ進行した位置で分光放射束が FB ( λ ) [ W/nm ] になったとします。この媒質の分光吸収係数を α ( λ ) とした場合、

と記述できます。これがランベルト・ベールの法則(Lambert-Beer’s law)と言われるものです≪※1≫。この関係式は、放射束が進行距離に対して指数関数に従って減衰していくことを示しており、光学フィルタの内部でもこのような現象が起こっています。含有色素の濃度が低いフィルタは吸収係数 α ( λ ) の値が小さいため減衰が緩やかなため透明度が高く、含有色素の濃度が高いほど α ( λ ) の値が大きいため急激に減衰し透明度が低いということになります。

フィルタ表面・裏面(媒質界面)での反射

上記は、均質な半透明媒質の内部での光の減衰の様子を説明したもので、実際に光学フィルタを使用する場合は、光はフィルタの外部(多くの場合は空気)からそのフィルタに入射し、フィルタ透過後はフィルタの外部へ出射する、つまりフィルタの界面を二度通過することになります。フィルタの界面の通過前後で媒質の屈折率が一般的には不連続に変化しますので界面での反射が発生します。この反射率は、界面の凹凸状態や入射角によって変化しますが、例えば界面が完全平面で垂直入射の場合、屈折率 n1 の媒質から屈折率 n2 の媒質へ入射する場合の反射率 r

という理論式で記述されます。≪※2≫

フィルタ素材(ガラスやアクリル等)の屈折率値を n1 、フィルタ外部の媒質の屈折率値を n2 (通常は空気で n2 = 1.0 ) とすれば入射界面での反射率 r を算出できます。光がフィルタ内から外部へ垂直射出する場合は、 n1 と n2 の値が入れ替わるだけで、反射率 r の値は同じです。

光学フィルタとしての分光透過率

フィルタ(厚み x )へ入射する直前の光の分光放射束を F0 ( λ ) 、入射界面通過直後の分光放射束を F0’ ( λ ) 、射出界面直前での分光放射束を F1’ ( λ ) 、射出界面通過直後(すなわちフィルタ透過光)の分光放射束を F1 ( λ ) と書きますと、

  • 入射界面での反射による減衰:
  • フィルタ内部での吸収による減衰:
  • 射出界面での反射による減衰:
と記述されますから、結局フィルタ透過光の分光放射束は

となります。従って、フィルタの表面と裏面での反射損失も含めたフィルタとしての分光透過率 T ( λ, x ) は

となります。

対象フィルタの吸収係数 α ( λ ) の算出

上記の分光透過率 T ( λ, x ) を示す関係式では、まだ分光吸収係数 α ( λ ) の値が求められていませんので、以下のようにして α ( λ ) の値を求めます。

対象とするフィルタ標準品(厚み x = x0 ) の分光透過率データ T ( λ, x0 ) を上式に適用すれば

ですから、これより

として、このフィルタ素材の分光吸収係数 α ( λ ) の値を算出することができます。

フィルタの厚みを変更した場合の分光透過率算出

このようにして算出した吸収係数 α ( λ ) のデータを用いることによって、任意の厚み x に対する分光透過率 T ( λ, x ) を算出することができます。

グラフは、レモン色のアクリルフィルタの標準品 (厚み x0 = 2.1 mm ) に対して、アクリルの屈折率を n2 = 1.5 (界面の反射率 r ≒ 4% ) として、厚み x の値を変えた場合の分光透過率 T ( λ, x ) を計算した例です。

以上の様にして色フィルタの厚み x を変えた場合の分光透過率 T ( λ, x ) を理論的に計算・推定できるのですが、現実のフィルタでは、以下の様な理論計算には考慮されていない要素による誤差が考えられます。

  • ・含有色素が完全均一かどうか
  • ・入射光が垂直入射かどうか
  • ・フィルタ表面が完全平面とは言いきれないこと
  • ・フィルタ素材の屈折率の波長依存性
  • ・フィルタ内部での表面・裏面間での多重反射、等々

従って、実際のフィルタの研磨では、理論計算結果の特性を狙い目に、許容誤差を考えながら厚みx を調整することになります。

注釈
※1 ランベルト・ベールの法則の導出

半透明で均質な物質内の或る点に F [ W ] という放射束があったとします。この物質内を、放射束の進行方向に垂直な同一厚さ ( dx ) の仮想的な薄い媒質層に分けて考えますと、放射束の進行とともに、各層 (微小距離 dx ) を通過する毎に吸収・散乱によって同一割合だけ失われていきます (減衰量 dF )。従って、減衰量 dF [W] ( dF < 0 ) は、この媒質薄層の厚み dx と元の放射束 F とに比例します。

つまり

より、

と書けます。従って、この媒質中の基準位置 ( x = 0 ) における放射が FA であったとし、この放射が距離 x だけ進行したときの放射を FB とすると

という積分計算により、

つまり、物質内部では、進行距離に対して指数関数的に放射束が減衰していくことを示しています。

※2 フィルタ表面・裏面での反射率 r

実際の(巨視的な)反射率は、本連載の第1回の最後の部分で説明しましたように、フィルタの界面での正反射成分に加えて、一旦フィルタ内部に進入してから散乱された成分が入射側空間へ放出された成分(拡散反射成分)も含んだものになりますが、ここでの反射率r は界面での正反射成分のみによるもので、フィルタ内部からの拡散反射成分は含んでいません。

また、厳密には屈折率nは光の波長によって異なる値をとりますので、

となり、波長毎の反射率を求めるべきですが、概略のシミュレーションを行うような場合には概ね一定として計算しても大きな問題にはならないと考えられます。

色フィルタの厚みと分光透過率

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第3回 色フィルタの厚みと分光透過率

前回(第2回:光学フィルタ)の註釈≪※2≫で触れましたように、市販の色ガラスフィルタやアクリルフィルタ等の標準品は通常厚みが(例えば厚さ2.5mmに) 固定されており、含有色素の濃度を何段階かに分けることによって、同一色系統のフィルタ群(例えばグリーンフィルタ群)内で何種類かの透過率レベルのものが揃えられています。

フィルタの分光透過率特性に対する要求が厳しい場合は、標準品の濃度系列の中間の濃度になり、要求にピッタリ合致するものが得られないという場合も出てきます。このような場合、フィルタを研磨して厚みを薄くすることによって要求の特性に極力合わせ込むということが行われる場合があります。

この場合、どのフィルタをどの程度厚みを薄くすると良いのか、ということになるのですが、闇雲に試行錯誤すると時間もコストもかかってしまいますので、或る程度理論的に見通しを立てて行うことが求められます。

均質な半透明媒質中での光の減衰

光が均質な半透明の媒質中を進行する場合、(媒質による吸収および散乱により)単位距離を進行する間に一定比率分だけ減衰していくことになります。この減衰の比率が吸収係数と呼ばれ、一般に媒質の種類毎に、また光の波長毎に異なる値をとります。今、媒質内の或る位置での分光放射束を FA ( λ ) [ W/nm ] とし、その位置から、媒質によって吸収を受けながら距離 x だけ進行した位置で分光放射束が FB ( λ ) [ W/nm ] になったとします。この媒質の分光吸収係数を α ( λ ) とした場合、

と記述できます。これがランベルト・ベールの法則(Lambert-Beer’s law)と言われるものです≪※1≫。この関係式は、放射束が進行距離に対して指数関数に従って減衰していくことを示しており、光学フィルタの内部でもこのような現象が起こっています。含有色素の濃度が低いフィルタは吸収係数 α ( λ ) の値が小さいため減衰が緩やかなため透明度が高く、含有色素の濃度が高いほど α ( λ ) の値が大きいため急激に減衰し透明度が低いということになります。

フィルタ表面・裏面(媒質界面)での反射

上記は、均質な半透明媒質の内部での光の減衰の様子を説明したもので、実際に光学フィルタを使用する場合は、光はフィルタの外部(多くの場合は空気)からそのフィルタに入射し、フィルタ透過後はフィルタの外部へ出射する、つまりフィルタの界面を二度通過することになります。フィルタの界面の通過前後で媒質の屈折率が一般的には不連続に変化しますので界面での反射が発生します。この反射率は、界面の凹凸状態や入射角によって変化しますが、例えば界面が完全平面で垂直入射の場合、屈折率 n1 の媒質から屈折率 n2 の媒質へ入射する場合の反射率 r

という理論式で記述されます。≪※2≫

フィルタ素材(ガラスやアクリル等)の屈折率値を n1 、フィルタ外部の媒質の屈折率値を n2 (通常は空気で n2 = 1.0 ) とすれば入射界面での反射率 r を算出できます。光がフィルタ内から外部へ垂直射出する場合は、 n1 と n2 の値が入れ替わるだけで、反射率 r の値は同じです。

光学フィルタとしての分光透過率

フィルタ(厚み x )へ入射する直前の光の分光放射束を F0 ( λ ) 、入射界面通過直後の分光放射束を F0’ ( λ ) 、射出界面直前での分光放射束を F1’ ( λ ) 、射出界面通過直後(すなわちフィルタ透過光)の分光放射束を F1 ( λ ) と書きますと、

  • 入射界面での反射による減衰:
  • フィルタ内部での吸収による減衰:
  • 射出界面での反射による減衰:
と記述されますから、結局フィルタ透過光の分光放射束は

となります。従って、フィルタの表面と裏面での反射損失も含めたフィルタとしての分光透過率 T ( λ, x ) は

となります。

対象フィルタの吸収係数 α ( λ ) の算出

上記の分光透過率 T ( λ, x ) を示す関係式では、まだ分光吸収係数 α ( λ ) の値が求められていませんので、以下のようにして α ( λ ) の値を求めます。

対象とするフィルタ標準品(厚み x = x0 ) の分光透過率データ T ( λ, x0 ) を上式に適用すれば

ですから、これより

として、このフィルタ素材の分光吸収係数 α ( λ ) の値を算出することができます。

フィルタの厚みを変更した場合の分光透過率算出

このようにして算出した吸収係数 α ( λ ) のデータを用いることによって、任意の厚み x に対する分光透過率 T ( λ, x ) を算出することができます。

グラフは、レモン色のアクリルフィルタの標準品 (厚み x0 = 2.1 mm ) に対して、アクリルの屈折率を n2 = 1.5 (界面の反射率 r ≒ 4% ) として、厚み x の値を変えた場合の分光透過率 T ( λ, x ) を計算した例です。

以上の様にして色フィルタの厚み x を変えた場合の分光透過率 T ( λ, x ) を理論的に計算・推定できるのですが、現実のフィルタでは、以下の様な理論計算には考慮されていない要素による誤差が考えられます。

  • ・含有色素が完全均一かどうか
  • ・入射光が垂直入射かどうか
  • ・フィルタ表面が完全平面とは言いきれないこと
  • ・フィルタ素材の屈折率の波長依存性
  • ・フィルタ内部での表面・裏面間での多重反射、等々

従って、実際のフィルタの研磨では、理論計算結果の特性を狙い目に、許容誤差を考えながら厚みx を調整することになります。

注釈
※1 ランベルト・ベールの法則の導出

半透明で均質な物質内の或る点に F [ W ] という放射束があったとします。この物質内を、放射束の進行方向に垂直な同一厚さ ( dx ) の仮想的な薄い媒質層に分けて考えますと、放射束の進行とともに、各層 (微小距離 dx ) を通過する毎に吸収・散乱によって同一割合だけ失われていきます (減衰量 dF )。従って、減衰量 dF [W] ( dF < 0 ) は、この媒質薄層の厚み dx と元の放射束 F とに比例します。

つまり

より、

と書けます。従って、この媒質中の基準位置 ( x = 0 ) における放射が FA であったとし、この放射が距離 x だけ進行したときの放射を FB とすると

という積分計算により、

つまり、物質内部では、進行距離に対して指数関数的に放射束が減衰していくことを示しています。

※2 フィルタ表面・裏面での反射率 r

実際の(巨視的な)反射率は、本連載の第1回の最後の部分で説明しましたように、フィルタの界面での正反射成分に加えて、一旦フィルタ内部に進入してから散乱された成分が入射側空間へ放出された成分(拡散反射成分)も含んだものになりますが、ここでの反射率r は界面での正反射成分のみによるもので、フィルタ内部からの拡散反射成分は含んでいません。

また、厳密には屈折率nは光の波長によって異なる値をとりますので、

となり、波長毎の反射率を求めるべきですが、概略のシミュレーションを行うような場合には概ね一定として計算しても大きな問題にはならないと考えられます。

色フィルタの厚みと分光透過率

光と色の話 第二部

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第3回 色フィルタの厚みと分光透過率

前回(第2回:光学フィルタ)の註釈≪※2≫で触れましたように、市販の色ガラスフィルタやアクリルフィルタ等の標準品は通常厚みが(例えば厚さ2.5mmに) 固定されており、含有色素の濃度を何段階かに分けることによって、同一色系統のフィルタ群(例えばグリーンフィルタ群)内で何種類かの透過率レベルのものが揃えられています。

フィルタの分光透過率特性に対する要求が厳しい場合は、標準品の濃度系列の中間の濃度になり、要求にピッタリ合致するものが得られないという場合も出てきます。このような場合、フィルタを研磨して厚みを薄くすることによって要求の特性に極力合わせ込むということが行われる場合があります。

この場合、どのフィルタをどの程度厚みを薄くすると良いのか、ということになるのですが、闇雲に試行錯誤すると時間もコストもかかってしまいますので、或る程度理論的に見通しを立てて行うことが求められます。

均質な半透明媒質中での光の減衰

光が均質な半透明の媒質中を進行する場合、(媒質による吸収および散乱により)単位距離を進行する間に一定比率分だけ減衰していくことになります。この減衰の比率が吸収係数と呼ばれ、一般に媒質の種類毎に、また光の波長毎に異なる値をとります。今、媒質内の或る位置での分光放射束を FA ( λ ) [ W/nm ] とし、その位置から、媒質によって吸収を受けながら距離 x だけ進行した位置で分光放射束が FB ( λ ) [ W/nm ] になったとします。この媒質の分光吸収係数を α ( λ ) とした場合、

と記述できます。これがランベルト・ベールの法則(Lambert-Beer’s law)と言われるものです≪※1≫。この関係式は、放射束が進行距離に対して指数関数に従って減衰していくことを示しており、光学フィルタの内部でもこのような現象が起こっています。含有色素の濃度が低いフィルタは吸収係数 α ( λ ) の値が小さいため減衰が緩やかなため透明度が高く、含有色素の濃度が高いほど α ( λ ) の値が大きいため急激に減衰し透明度が低いということになります。

フィルタ表面・裏面(媒質界面)での反射

上記は、均質な半透明媒質の内部での光の減衰の様子を説明したもので、実際に光学フィルタを使用する場合は、光はフィルタの外部(多くの場合は空気)からそのフィルタに入射し、フィルタ透過後はフィルタの外部へ出射する、つまりフィルタの界面を二度通過することになります。フィルタの界面の通過前後で媒質の屈折率が一般的には不連続に変化しますので界面での反射が発生します。この反射率は、界面の凹凸状態や入射角によって変化しますが、例えば界面が完全平面で垂直入射の場合、屈折率 n1 の媒質から屈折率 n2 の媒質へ入射する場合の反射率 r

という理論式で記述されます。≪※2≫

フィルタ素材(ガラスやアクリル等)の屈折率値を n1 、フィルタ外部の媒質の屈折率値を n2 (通常は空気で n2 = 1.0 ) とすれば入射界面での反射率 r を算出できます。光がフィルタ内から外部へ垂直射出する場合は、 n1 と n2 の値が入れ替わるだけで、反射率 r の値は同じです。

光学フィルタとしての分光透過率

フィルタ(厚み x )へ入射する直前の光の分光放射束を F0 ( λ ) 、入射界面通過直後の分光放射束を F0’ ( λ ) 、射出界面直前での分光放射束を F1’ ( λ ) 、射出界面通過直後(すなわちフィルタ透過光)の分光放射束を F1 ( λ ) と書きますと、

  • 入射界面での反射による減衰:
  • フィルタ内部での吸収による減衰:
  • 射出界面での反射による減衰:
と記述されますから、結局フィルタ透過光の分光放射束は

となります。従って、フィルタの表面と裏面での反射損失も含めたフィルタとしての分光透過率 T ( λ, x ) は

となります。

対象フィルタの吸収係数 α ( λ ) の算出

上記の分光透過率 T ( λ, x ) を示す関係式では、まだ分光吸収係数 α ( λ ) の値が求められていませんので、以下のようにして α ( λ ) の値を求めます。

対象とするフィルタ標準品(厚み x = x0 ) の分光透過率データ T ( λ, x0 ) を上式に適用すれば

ですから、これより

として、このフィルタ素材の分光吸収係数 α ( λ ) の値を算出することができます。

フィルタの厚みを変更した場合の分光透過率算出

このようにして算出した吸収係数 α ( λ ) のデータを用いることによって、任意の厚み x に対する分光透過率 T ( λ, x ) を算出することができます。

グラフは、レモン色のアクリルフィルタの標準品 (厚み x0 = 2.1 mm ) に対して、アクリルの屈折率を n2 = 1.5 (界面の反射率 r ≒ 4% ) として、厚み x の値を変えた場合の分光透過率 T ( λ, x ) を計算した例です。

以上の様にして色フィルタの厚み x を変えた場合の分光透過率 T ( λ, x ) を理論的に計算・推定できるのですが、現実のフィルタでは、以下の様な理論計算には考慮されていない要素による誤差が考えられます。

  • ・含有色素が完全均一かどうか
  • ・入射光が垂直入射かどうか
  • ・フィルタ表面が完全平面とは言いきれないこと
  • ・フィルタ素材の屈折率の波長依存性
  • ・フィルタ内部での表面・裏面間での多重反射、等々

従って、実際のフィルタの研磨では、理論計算結果の特性を狙い目に、許容誤差を考えながら厚みx を調整することになります。

注釈
※1 ランベルト・ベールの法則の導出

半透明で均質な物質内の或る点に F [ W ] という放射束があったとします。この物質内を、放射束の進行方向に垂直な同一厚さ ( dx ) の仮想的な薄い媒質層に分けて考えますと、放射束の進行とともに、各層 (微小距離 dx ) を通過する毎に吸収・散乱によって同一割合だけ失われていきます (減衰量 dF )。従って、減衰量 dF [W] ( dF < 0 ) は、この媒質薄層の厚み dx と元の放射束 F とに比例します。

つまり

より、

と書けます。従って、この媒質中の基準位置 ( x = 0 ) における放射が FA であったとし、この放射が距離 x だけ進行したときの放射を FB とすると

という積分計算により、

つまり、物質内部では、進行距離に対して指数関数的に放射束が減衰していくことを示しています。

※2 フィルタ表面・裏面での反射率 r

実際の(巨視的な)反射率は、本連載の第1回の最後の部分で説明しましたように、フィルタの界面での正反射成分に加えて、一旦フィルタ内部に進入してから散乱された成分が入射側空間へ放出された成分(拡散反射成分)も含んだものになりますが、ここでの反射率r は界面での正反射成分のみによるもので、フィルタ内部からの拡散反射成分は含んでいません。

また、厳密には屈折率nは光の波長によって異なる値をとりますので、

となり、波長毎の反射率を求めるべきですが、概略のシミュレーションを行うような場合には概ね一定として計算しても大きな問題にはならないと考えられます。

色フィルタの厚みと分光透過率

Q1.参考になりましたか?
Q2.次回連載を期待されますか?
Q3.連載の感想がありましたらご記入ください。

アンケートにご協力いただきありがとうございました。