光と色の話 第一部

光と色の話 第一部

第26回 人の眼 と 器械(カメラ)の眼(その3)

・・・・・カメラの露出制御・・・・・

前回は、人間の眼が明暗(白黒)を認識する仕組みと、カメラの「適正露出」の考え方との共通点を概念的に紹介し、カメラの絞りやシャッター速度などの露出制御パラメータと「適正露出」との関係についてお話しました。

昔のカメラは設定が全て手動でした。シャッター速度と絞りを設定して、構図を決めて被写体にピントを合わせて撮影したものです。従ってその設定が拙いと、ピンボケになったり、露出過剰で白く飛んだり露出不足で黒くつぶれたりする失敗がよく起こったものです。しかし、現在の殆どのカメラは、被写体にカメラを向けてシャッターを押すだけで、誰でも簡単に露出もピントも合ったきれいな写真が撮れるようになっていますね。

今回は、カメラがこの「適正露出」を自動的に達成するために、実際にはどのようにしてこれらのパラメータの組み合わせを制御しているのかをお話しましょう。

カメラの露出制御パラメータの数値系列

絞りや露光時間(シャッター速度)などの露出パラメータは、下の表に示すように、2 の指数乗の数値系列をとるように設定されています。これは、元々銀塩写真のフィルムの感光特性をベースに写真のシステムが構築されているからで、最近のデジタル写真もこのシステムに則っているためです。

これらの制御数値の系列は、シャッター速度を 1 段階遅く(露光時間を 1 段階長く)、例えば 1 / 60 秒から 1 / 30 秒に設定すると、露光量は 2 倍に増加します。また、絞りの設定を 1 段階絞る(例えば F4 から F5.6 に変更する)と、撮像面の照度は 1 / 2 に減少します。これらの「段階数(段数)」に対応するのが、AVTVBVSV と表示された数値系列です。これらは、それぞれ、絞り、露光時間、被写体輝度※1 、撮像媒体感度の実際の値に対して、2 を底とする対数値で表した数値系列なのですが、詳しくは次の節で説明します。

N および K については※2※3 を参照。

反射光式露出制御
・・・・・被写体の反射光(輝度 B )を測定して露出を決める方式

前回説明しました、適正露出を与える条件式

において、カメラが制御可能な因子である絞り値 A と露光時間 T に着目して、これらを左辺に集めて、上式を整理しますと、

となります。これを

 ( N = 0.32 ; 定数 ※2 )

と少し変形して、両辺に対して 2 を底とする対数をとると、

となります。ここで、AVTVBVSV を右のように定義しますと、

AV + TV = BV + SV = EV

と書くことができます。

この式は、反射光式露出制御において、適正露出が得られる場合の露出制御パラメータ間の関係を示す最も基本となる重要な関係式で、APEX 関係式 といいます。( APEX = Additive system of Photographic EXposure )

ここで新しいパラメータ EV が定義されていますが、これは、「露出値」( Exposure Value )と言われるものです。
このAPEX関係式において、先ず BV + SVEV に着目すると、(カメラの絞りやシャッターに関係なく)被写体輝度と撮像媒体感度で決まる「適正露光量値」という意味になります。

BV 値の要素に含まれる定数 K は 反射光式露出計の校正定数 といわれるもので、その時の撮像媒体感度 SX に対して、測定した被写体部分(輝度 B )が中庸な濃度( neutral gray )に仕上がるように K の値が設定されます※3。 従って、この EV 値が適正露出を与える露光量を示すことになります。

一方、AV + TVEV に着目すると、(被写体や撮像素子とは関係なく)カメラの絞りとシャッターの組み合わせで決まる「露出制御値」という意味になります※4。従って、APEX 関係式は、「露出制御値」=「適正露光量値」となったときに適正露出となる、ということを意味しています。

色々なプログラム露出制御

自動露出機能を備えたカメラでは、カメラに内蔵されたセンサーにより被写体輝度 B を測定して BV 値を求め、そのカメラの撮像媒体の感度データ( SV 値)とから適正露光量 EV 値を算出します。次にその EV 値を AV 値(絞り値)と TV 値(露光時間すなわちシャッター速度値)に分割して露出制御を行う訳です。このとき、求められた或る EV 値に対して、 AV 値と TV 値については様々な組み合わせが可能です。撮影目的や撮影条件に応じて、この組み合わせを予め決めておく(プログラムしておく)露出制御を プログラム露出制御 と言っています。

動きの早い被写体を止めて写したいときは、シャッター速度を或る高速の値(例えば 1 / 1000 秒)に設定しますが、その時は適正露出になるように、被写体輝度に応じて、それに対応する分だけ絞りを開けて撮影することになります(シャッター速度優先モード)。また、被写界深度の深い写真にしたい場合は絞りを絞りますので、その分だけシャッター速度を遅く制御することになります(絞り優先モード)。※5

また、広い被写体輝度範囲に亘って、絞りやシャッター速度の効果をあまり意識せずに、ただシャッター釦を押すだけで、そこそこの写真が撮れればよい、という目的には、標準的なプログラム制御が用いられます。これは、そのカメラで対応可能な露出値( EV )の最大範囲に亘って、絞りとシャッター速度の組み合わせを或る特定の組み合わせに予め定めておいて、それに従って露出制御を行うもので、初心者用のコンパクトカメラなどに標準装備されています。※6

以上がカメラ自体に被写体輝度(すなわち被写体の反射光)を測定する機能を備えて自動露出制御を行うもので、「反射光式露出制御」と呼ばれるものの概略です。

上述のように、カメラでは、撮影媒体面の照度を制御するのは絞りとシャッターの組み合わせなのですが、肉眼では、シャッターに対応する機能がありませんので、絞りに対応する虹彩(瞳孔)のみの制御になります。虹彩の制御だけでは網膜面照度の制御範囲は狭いものになってしまいますので、それをカバーするのが、視細胞の感度レベルの生理的変化であると言えます。つまり、肉眼は、虹彩を絞ってもまだ視界が明るすぎると(網膜面照度が高すぎると)生理的に視細胞の感度が鈍くなり、また逆に、虹彩を開けてもなお視界が暗いと(網膜面照度が低いと)生理的に視細胞の感度が鋭敏になって、視界の明るさの広い範囲に対して適切に視認できるようになっています。

入射光式露出制御
・・・・・被写体への入射光(照度 I )を測定して露出を決める方式

上記は、被写体面からの反射光(被写体輝度)を測定してカメラの露出制御を行うものですが、反射光ではなく、照明光が被写体面を照らす明るさ(照度)を測定してカメラの露出を制御する方式があります。これが「入射光式露出制御」です。プロカメラマンが、被写体モデルの顔の辺りに(カメラとは別体の)露出計をかざして、受光部をカメラの方に向けて測定している場面を見た人もいるでしょう。カメラに露出計が内蔵されているのに、何故わざわざカメラとは別体の露出計を使うのか、という疑問を持った人もいると思いますが、これは、(後述のように)反射光式露出制御には原理的に対応できないことが別体の入射光式露出計には対応できるという特長があるためです。

今、照明光の被写体表面での照度を I [ lx ]とします。
この照明光が被写体(反射率 ρ0 ・・・※7)によって反射された光がカメラによって捉えられて撮像されることになります。
被写体反射面( 反射率 ρ0 )における輝度 B と照度 I の関係は、比例関係にあり、
Bk 3ρ0I  (ただし k 3 は比例定数)
と書けます。従って、上記の適正露光を与える関係式に代入すると

となります。

ただし C は定数で、CK / ( k 3ρ0 ) です。
ここで、

と定義すると、(反射光式の場合と同様にして)

AV + TV = IV + SV = EV

となります。これが、入射光式露出制御の APEX 関係式です。 入射光式露出制御の「校正定数 C 」には、被写体の反射率 ρ0 が定数として含まれていることに注目して下さい。
これは、或る特定の反射率( ρ0 )の被写体が、適正に露出される、ということを意味しています。
従って、 ρρ0 の被写体は、 ρ0 の部分よりも明るく露出され、 ρρ0 の被写体は、 ρ0 の部分よりも暗く露出される、ということです。通常、この ρ0 は様々な撮影シーンの平均的反射率に設定され、その条件で入射光式露出計が校正されます。(現実には人間の顔の反射率近辺の ρ0 = 18 % 程度に設定され、露出計校正用の標準反射板の特性はこの反射率値になっています。)

反射光式露出計における平均測光とスポット測光

上の表に示しましたように、反射光式露出計においては、被写体の輝度測定部分が中庸な濃度( neutral gray )に仕上がります。従って、被写体のどの部分の輝度を測定するのかによって、画面全体の仕上がりが影響を受けます。通常のカメラでは、画面の全体に亘る比較的広いエリアの平均輝度を測ることによって、一般的な被写体条件で概ね満足できる露出条件を割り出します。
しかし、極端な輝度分布の撮影シーン、例えば雪景色をバックにした人物を撮影する場合など、非常に明るいバックの雪景色が中庸濃度に再現され、人物の顔が真っ暗につぶれてしまうことになってしまいます。

そのような場合は、人物の顔の部分のみの輝度を測定できる、測定角の狭い輝度測定器(スポット露出計)を使えば、人物の顔が中庸濃度に仕上がる露出を行うことができます。
あるいは、入射光式露出計を使えば、極端な反射率の被写体(バックの雪景色)には関係なく、平均的な反射率の被写体(人物の顔)が概ね中庸な濃度に仕上がります。

フラッシュ撮影での露出制御

定常光撮影の場合には、露光時間中に被写体輝度 B は変化しませんので
B = 一定)、撮像媒体の露光量は、単純に像面照度( E )と露光時間( T )の積になります。従って、異なる被写体輝度に対しては、積の値が等しくなるように露光時間で補償してやれば適性露出が得られます。

しかしフラッシュ撮影の場合には、照明光が露光時間中に変動しますので、被写体輝度 B は時間の関数になってしまい、定常光撮影の場合のように単純な形にはなりません。

従って、以下に述べますように、カメラは、被写体輝度の変化をリアルタイムに測定しながら時々刻々増加して行く露光量をモニターし、適正露出を与える露光量に達する瞬間にフラッシュを発光停止する、という制御を行います。

今、被写体を照明する定常光による被写体輝度(フラッシュを発光させていない状態)を B とします。また定常光を遮断して(真っ暗にして)フラッシュだけを照射したときの被写体輝度を BF ( t ) としますと、実際のフラッシュ撮影状態での被写体輝度は

B ( t )= BBF ( t )

と表すことができます。フィルム面に到達する光量 Q1 は、時間の関数として

となりますが、この Q1 ( t ) の変化を時々刻々モニターしながら、これが Q2 に一致した瞬間にフラッシュの発光を停止することになります。 右上に制御概念図を、下に制御ブロック回路図を示します。
すなわち、 t = tF の時点で Q1Q2 となるとすれば、適正露出条件は

となります。

フラッシュは、コンデンサに蓄電された電荷を急速放電させて発光させるものですから、 Q1Q2 となった瞬間に発光停止信号を出しても、実際には発光が完全停止するまでに若干の時間遅れが発生し、その結果、 Q1Q2 すなわち露光オーバーとなってしまいます。この対策として、フラッシュのリアルタイム制御時には、実際に装填されている撮像媒体の感度値 SX よりも高感度の擬似感度値 SX ’ ( SX ’ > SX ) を用いて、早めに発光停止信号を出力させ、発光停止遅れの成分の影響も含めて結果的に適正露出になるようにしています。

注釈
※1 被写体輝度

「輝度」の定義は、本連載の第 5 回 ~ 第 7 回 『放射量と測光量』で説明しましたように、人間の眼の感度(分光応答度)である標準分光視感効率 V ( λ ) によって評価したものです。
ここでは器械の眼であるカメラの撮像媒体(フィルムや撮像素子)の感光量を評価しようとしていますので、厳密には標準分光視感効率 V ( λ ) ではなく、そのカメラの撮像媒体の分光応答度で評価した、いわば、「被写体の実効放射輝度」というべきものになります。

※2 定数 N の値

APEX 関係式は、露出制御値を( 2 を底とする)対数値に変換することにより、各制御値の倍数系列の変化量を整数系列
( 1 ,2 ,3 ,・・・ )で表すようにしたものです。
媒体感度 SX は倍数系列の ISO 値( ・・・ 、25 、50 、100 、200 、400 、・・・ )で表現されます。この ISO 値を SV 値に変換するに当たり、そのまま( 2 を底とする)対数に変換すると整数値にならず、中途半端な値になってしまいます。そこで、最も一般的に使用される ISO 感度 100 が SV = 5 というキリのよい整数値となるように導入した換算係数が N = 0.32 ということです。
SX = 100  に対して  SV = log2 ( NSX )= log2 ( 0.32 × 100 ) = log2 ( 32 ) = log2 ( 25 ) = 5

※3 K (反射光式露出計の校正定数)

反射光式露出計の校正定数 K は、一般的撮影における被写界の平均的反射率( 18 % 近辺)の撮影部分が撮影媒体(フィルムや CCD 撮像素子など)によって中庸な濃度( neutral gray )に仕上がる条件になるように、通常は、10.6 ~ 13.4 程度の値が設定されます。

※4 露出(制御)値 EV

露出値 EV を、カメラの制御値である AV 値と TV 値の様々な組み合わせ( EVAVTV )としてグラフに表したものが下図です。同じ EV 値に対して、様々な AV 値と TV 値の組み合わせが可能であることがわかります。

※5 シャッター速度優先モード と 絞り優先モード

シャッター速度の設定(可変)範囲が、30 秒 ~ 1 / 2000 秒、絞りの設定(可変)範囲が F2 ~ F64 であるカメラの場合を考えてみます。この場合、水色で着色した領域がこのカメラの露光量可変制御範囲になります。

シャッター速度を例えば 1 / 1000 秒固定としたシャッター速度優先モードの制御線図が赤い線です。この場合、被写体輝度 BV と撮影媒体感度 SV によって決まる露光量値 EV ( = BVSV )の値が 22 を超える被写体部分は露出オーバーになってしまいます。また逆に EV 値が 12 未満の被写体部分は露出アンダーになってしまいます。

絞り値を例えば F2.8 に固定した場合の絞り優先モードの制御線図が赤い線です。
この場合、 EV > 14 の被写体部分は露出オーバーになり、 EV < - 2 の被写体部分は露出アンダーになってしまいます。

※6 標準的なプログラム制御モード

下図は、標準的なプログラム制御モードの一例です。適正露光量値 EV( = BVSV )に対して、シャッター速度 ( TV ) と絞り( AV )の組み合わせを予め決めておき、撮影時にカメラが測定した EV 値に対して、対応するシャッター速度と絞りで撮影します。

このプログラム制御では、作画におけるシャッター速度や絞りの効果をどのように演出するかによって、色々な制御線図が実用化されています。

例えばスローシャッターになったときに、手振れを極力抑えるように、適正露出を確保しながら高速シャッター速度優先的にプログラムした「手振れ防止モード」や、絞りを開け気味にしてバックをぼかした写真を仕上げる「ポートレートモード」などのプログラムがあります。

※7

ここでは直感的イメージとして分り易いように「反射率」という表現を用いましたが、厳密(技術的)には「輝度率」と表現すべきものです。

人の眼 と 器械(カメラ)の眼(その3)
・・・・・カメラの露出制御・・・・・

光と色の話 第一部

光と色の話 第一部

第26回 人の眼 と 器械(カメラ)の眼(その3)

・・・・・カメラの露出制御・・・・・

前回は、人間の眼が明暗(白黒)を認識する仕組みと、カメラの「適正露出」の考え方との共通点を概念的に紹介し、カメラの絞りやシャッター速度などの露出制御パラメータと「適正露出」との関係についてお話しました。

昔のカメラは設定が全て手動でした。シャッター速度と絞りを設定して、構図を決めて被写体にピントを合わせて撮影したものです。従ってその設定が拙いと、ピンボケになったり、露出過剰で白く飛んだり露出不足で黒くつぶれたりする失敗がよく起こったものです。しかし、現在の殆どのカメラは、被写体にカメラを向けてシャッターを押すだけで、誰でも簡単に露出もピントも合ったきれいな写真が撮れるようになっていますね。

今回は、カメラがこの「適正露出」を自動的に達成するために、実際にはどのようにしてこれらのパラメータの組み合わせを制御しているのかをお話しましょう。

カメラの露出制御パラメータの数値系列

絞りや露光時間(シャッター速度)などの露出パラメータは、下の表に示すように、2 の指数乗の数値系列をとるように設定されています。これは、元々銀塩写真のフィルムの感光特性をベースに写真のシステムが構築されているからで、最近のデジタル写真もこのシステムに則っているためです。

これらの制御数値の系列は、シャッター速度を 1 段階遅く(露光時間を 1 段階長く)、例えば 1 / 60 秒から 1 / 30 秒に設定すると、露光量は 2 倍に増加します。また、絞りの設定を 1 段階絞る(例えば F4 から F5.6 に変更する)と、撮像面の照度は 1 / 2 に減少します。これらの「段階数(段数)」に対応するのが、AVTVBVSV と表示された数値系列です。これらは、それぞれ、絞り、露光時間、被写体輝度※1 、撮像媒体感度の実際の値に対して、2 を底とする対数値で表した数値系列なのですが、詳しくは次の節で説明します。

N および K については※2※3 を参照。

反射光式露出制御
・・・・・被写体の反射光(輝度 B )を測定して露出を決める方式

前回説明しました、適正露出を与える条件式

において、カメラが制御可能な因子である絞り値 A と露光時間 T に着目して、これらを左辺に集めて、上式を整理しますと、

となります。これを

 ( N = 0.32 ; 定数 ※2 )

と少し変形して、両辺に対して 2 を底とする対数をとると、

となります。ここで、AVTVBVSV を右のように定義しますと、

AV + TV = BV + SV = EV

と書くことができます。

この式は、反射光式露出制御において、適正露出が得られる場合の露出制御パラメータ間の関係を示す最も基本となる重要な関係式で、APEX 関係式 といいます。( APEX = Additive system of Photographic EXposure )

ここで新しいパラメータ EV が定義されていますが、これは、「露出値」( Exposure Value )と言われるものです。
このAPEX関係式において、先ず BV + SVEV に着目すると、(カメラの絞りやシャッターに関係なく)被写体輝度と撮像媒体感度で決まる「適正露光量値」という意味になります。

BV 値の要素に含まれる定数 K は 反射光式露出計の校正定数 といわれるもので、その時の撮像媒体感度 SX に対して、測定した被写体部分(輝度 B )が中庸な濃度( neutral gray )に仕上がるように K の値が設定されます※3。 従って、この EV 値が適正露出を与える露光量を示すことになります。

一方、AV + TVEV に着目すると、(被写体や撮像素子とは関係なく)カメラの絞りとシャッターの組み合わせで決まる「露出制御値」という意味になります※4。従って、APEX 関係式は、「露出制御値」=「適正露光量値」となったときに適正露出となる、ということを意味しています。

色々なプログラム露出制御

自動露出機能を備えたカメラでは、カメラに内蔵されたセンサーにより被写体輝度 B を測定して BV 値を求め、そのカメラの撮像媒体の感度データ( SV 値)とから適正露光量 EV 値を算出します。次にその EV 値を AV 値(絞り値)と TV 値(露光時間すなわちシャッター速度値)に分割して露出制御を行う訳です。このとき、求められた或る EV 値に対して、 AV 値と TV 値については様々な組み合わせが可能です。撮影目的や撮影条件に応じて、この組み合わせを予め決めておく(プログラムしておく)露出制御を プログラム露出制御 と言っています。

動きの早い被写体を止めて写したいときは、シャッター速度を或る高速の値(例えば 1 / 1000 秒)に設定しますが、その時は適正露出になるように、被写体輝度に応じて、それに対応する分だけ絞りを開けて撮影することになります(シャッター速度優先モード)。また、被写界深度の深い写真にしたい場合は絞りを絞りますので、その分だけシャッター速度を遅く制御することになります(絞り優先モード)。※5

また、広い被写体輝度範囲に亘って、絞りやシャッター速度の効果をあまり意識せずに、ただシャッター釦を押すだけで、そこそこの写真が撮れればよい、という目的には、標準的なプログラム制御が用いられます。これは、そのカメラで対応可能な露出値( EV )の最大範囲に亘って、絞りとシャッター速度の組み合わせを或る特定の組み合わせに予め定めておいて、それに従って露出制御を行うもので、初心者用のコンパクトカメラなどに標準装備されています。※6

以上がカメラ自体に被写体輝度(すなわち被写体の反射光)を測定する機能を備えて自動露出制御を行うもので、「反射光式露出制御」と呼ばれるものの概略です。

上述のように、カメラでは、撮影媒体面の照度を制御するのは絞りとシャッターの組み合わせなのですが、肉眼では、シャッターに対応する機能がありませんので、絞りに対応する虹彩(瞳孔)のみの制御になります。虹彩の制御だけでは網膜面照度の制御範囲は狭いものになってしまいますので、それをカバーするのが、視細胞の感度レベルの生理的変化であると言えます。つまり、肉眼は、虹彩を絞ってもまだ視界が明るすぎると(網膜面照度が高すぎると)生理的に視細胞の感度が鈍くなり、また逆に、虹彩を開けてもなお視界が暗いと(網膜面照度が低いと)生理的に視細胞の感度が鋭敏になって、視界の明るさの広い範囲に対して適切に視認できるようになっています。

入射光式露出制御
・・・・・被写体への入射光(照度 I )を測定して露出を決める方式

上記は、被写体面からの反射光(被写体輝度)を測定してカメラの露出制御を行うものですが、反射光ではなく、照明光が被写体面を照らす明るさ(照度)を測定してカメラの露出を制御する方式があります。これが「入射光式露出制御」です。プロカメラマンが、被写体モデルの顔の辺りに(カメラとは別体の)露出計をかざして、受光部をカメラの方に向けて測定している場面を見た人もいるでしょう。カメラに露出計が内蔵されているのに、何故わざわざカメラとは別体の露出計を使うのか、という疑問を持った人もいると思いますが、これは、(後述のように)反射光式露出制御には原理的に対応できないことが別体の入射光式露出計には対応できるという特長があるためです。

今、照明光の被写体表面での照度を I [ lx ]とします。
この照明光が被写体(反射率 ρ0 ・・・※7)によって反射された光がカメラによって捉えられて撮像されることになります。
被写体反射面( 反射率 ρ0 )における輝度 B と照度 I の関係は、比例関係にあり、
Bk 3ρ0I  (ただし k 3 は比例定数)
と書けます。従って、上記の適正露光を与える関係式に代入すると

となります。

ただし C は定数で、CK / ( k 3ρ0 ) です。
ここで、

と定義すると、(反射光式の場合と同様にして)

AV + TV = IV + SV = EV

となります。これが、入射光式露出制御の APEX 関係式です。 入射光式露出制御の「校正定数 C 」には、被写体の反射率 ρ0 が定数として含まれていることに注目して下さい。
これは、或る特定の反射率( ρ0 )の被写体が、適正に露出される、ということを意味しています。
従って、 ρρ0 の被写体は、 ρ0 の部分よりも明るく露出され、 ρρ0 の被写体は、 ρ0 の部分よりも暗く露出される、ということです。通常、この ρ0 は様々な撮影シーンの平均的反射率に設定され、その条件で入射光式露出計が校正されます。(現実には人間の顔の反射率近辺の ρ0 = 18 % 程度に設定され、露出計校正用の標準反射板の特性はこの反射率値になっています。)

反射光式露出計における平均測光とスポット測光

上の表に示しましたように、反射光式露出計においては、被写体の輝度測定部分が中庸な濃度( neutral gray )に仕上がります。従って、被写体のどの部分の輝度を測定するのかによって、画面全体の仕上がりが影響を受けます。通常のカメラでは、画面の全体に亘る比較的広いエリアの平均輝度を測ることによって、一般的な被写体条件で概ね満足できる露出条件を割り出します。
しかし、極端な輝度分布の撮影シーン、例えば雪景色をバックにした人物を撮影する場合など、非常に明るいバックの雪景色が中庸濃度に再現され、人物の顔が真っ暗につぶれてしまうことになってしまいます。

そのような場合は、人物の顔の部分のみの輝度を測定できる、測定角の狭い輝度測定器(スポット露出計)を使えば、人物の顔が中庸濃度に仕上がる露出を行うことができます。
あるいは、入射光式露出計を使えば、極端な反射率の被写体(バックの雪景色)には関係なく、平均的な反射率の被写体(人物の顔)が概ね中庸な濃度に仕上がります。

フラッシュ撮影での露出制御

定常光撮影の場合には、露光時間中に被写体輝度 B は変化しませんので
B = 一定)、撮像媒体の露光量は、単純に像面照度( E )と露光時間( T )の積になります。従って、異なる被写体輝度に対しては、積の値が等しくなるように露光時間で補償してやれば適性露出が得られます。

しかしフラッシュ撮影の場合には、照明光が露光時間中に変動しますので、被写体輝度 B は時間の関数になってしまい、定常光撮影の場合のように単純な形にはなりません。

従って、以下に述べますように、カメラは、被写体輝度の変化をリアルタイムに測定しながら時々刻々増加して行く露光量をモニターし、適正露出を与える露光量に達する瞬間にフラッシュを発光停止する、という制御を行います。

今、被写体を照明する定常光による被写体輝度(フラッシュを発光させていない状態)を B とします。また定常光を遮断して(真っ暗にして)フラッシュだけを照射したときの被写体輝度を BF ( t ) としますと、実際のフラッシュ撮影状態での被写体輝度は

B ( t )= BBF ( t )

と表すことができます。フィルム面に到達する光量 Q1 は、時間の関数として

となりますが、この Q1 ( t ) の変化を時々刻々モニターしながら、これが Q2 に一致した瞬間にフラッシュの発光を停止することになります。 右上に制御概念図を、下に制御ブロック回路図を示します。
すなわち、 t = tF の時点で Q1Q2 となるとすれば、適正露出条件は

となります。

フラッシュは、コンデンサに蓄電された電荷を急速放電させて発光させるものですから、 Q1Q2 となった瞬間に発光停止信号を出しても、実際には発光が完全停止するまでに若干の時間遅れが発生し、その結果、 Q1Q2 すなわち露光オーバーとなってしまいます。この対策として、フラッシュのリアルタイム制御時には、実際に装填されている撮像媒体の感度値 SX よりも高感度の擬似感度値 SX ’ ( SX ’ > SX ) を用いて、早めに発光停止信号を出力させ、発光停止遅れの成分の影響も含めて結果的に適正露出になるようにしています。

注釈
※1 被写体輝度

「輝度」の定義は、本連載の第 5 回 ~ 第 7 回 『放射量と測光量』で説明しましたように、人間の眼の感度(分光応答度)である標準分光視感効率 V ( λ ) によって評価したものです。
ここでは器械の眼であるカメラの撮像媒体(フィルムや撮像素子)の感光量を評価しようとしていますので、厳密には標準分光視感効率 V ( λ ) ではなく、そのカメラの撮像媒体の分光応答度で評価した、いわば、「被写体の実効放射輝度」というべきものになります。

※2 定数 N の値

APEX 関係式は、露出制御値を( 2 を底とする)対数値に変換することにより、各制御値の倍数系列の変化量を整数系列
( 1 ,2 ,3 ,・・・ )で表すようにしたものです。
媒体感度 SX は倍数系列の ISO 値( ・・・ 、25 、50 、100 、200 、400 、・・・ )で表現されます。この ISO 値を SV 値に変換するに当たり、そのまま( 2 を底とする)対数に変換すると整数値にならず、中途半端な値になってしまいます。そこで、最も一般的に使用される ISO 感度 100 が SV = 5 というキリのよい整数値となるように導入した換算係数が N = 0.32 ということです。
SX = 100  に対して  SV = log2 ( NSX )= log2 ( 0.32 × 100 ) = log2 ( 32 ) = log2 ( 25 ) = 5

※3 K (反射光式露出計の校正定数)

反射光式露出計の校正定数 K は、一般的撮影における被写界の平均的反射率( 18 % 近辺)の撮影部分が撮影媒体(フィルムや CCD 撮像素子など)によって中庸な濃度( neutral gray )に仕上がる条件になるように、通常は、10.6 ~ 13.4 程度の値が設定されます。

※4 露出(制御)値 EV

露出値 EV を、カメラの制御値である AV 値と TV 値の様々な組み合わせ( EVAVTV )としてグラフに表したものが下図です。同じ EV 値に対して、様々な AV 値と TV 値の組み合わせが可能であることがわかります。

※5 シャッター速度優先モード と 絞り優先モード

シャッター速度の設定(可変)範囲が、30 秒 ~ 1 / 2000 秒、絞りの設定(可変)範囲が F2 ~ F64 であるカメラの場合を考えてみます。この場合、水色で着色した領域がこのカメラの露光量可変制御範囲になります。

シャッター速度を例えば 1 / 1000 秒固定としたシャッター速度優先モードの制御線図が赤い線です。この場合、被写体輝度 BV と撮影媒体感度 SV によって決まる露光量値 EV ( = BVSV )の値が 22 を超える被写体部分は露出オーバーになってしまいます。また逆に EV 値が 12 未満の被写体部分は露出アンダーになってしまいます。

絞り値を例えば F2.8 に固定した場合の絞り優先モードの制御線図が赤い線です。
この場合、 EV > 14 の被写体部分は露出オーバーになり、 EV < - 2 の被写体部分は露出アンダーになってしまいます。

※6 標準的なプログラム制御モード

下図は、標準的なプログラム制御モードの一例です。適正露光量値 EV( = BVSV )に対して、シャッター速度 ( TV ) と絞り( AV )の組み合わせを予め決めておき、撮影時にカメラが測定した EV 値に対して、対応するシャッター速度と絞りで撮影します。

このプログラム制御では、作画におけるシャッター速度や絞りの効果をどのように演出するかによって、色々な制御線図が実用化されています。

例えばスローシャッターになったときに、手振れを極力抑えるように、適正露出を確保しながら高速シャッター速度優先的にプログラムした「手振れ防止モード」や、絞りを開け気味にしてバックをぼかした写真を仕上げる「ポートレートモード」などのプログラムがあります。

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ここでは直感的イメージとして分り易いように「反射率」という表現を用いましたが、厳密(技術的)には「輝度率」と表現すべきものです。

人の眼 と 器械(カメラ)の眼(その3)
・・・・・カメラの露出制御・・・・・

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