光と色の話 第二部

光と色の話 第二部

第4回 再帰(再帰性)反射

夜間、車を走らせていると、暗い視界の中、ヘッドライトに交通標識や道路工事の警告表示等の立看板が明るく浮き上がってくることがあります。同じヘッドライトの視界の中でも、一般の立看板等はこれほど明るく明瞭には見えず、ライトが斜めに当たっている場合には猶更暗くなってしまい文字も読みづらくなってしまいます。

また、斜め前方を走っている自転車の場合も、自転車後部の反射板が明るく見える為、注意して運転することになります。これも自転車の反射板に対して、ヘッドライトの方向は斜め方向からになることが殆どですが、反射板は明るく光って見えます。

夜間は暗くて見通しが悪く、道路状況の異常や斜め前方を走る自転車は事故に結びつき易い為、このような警告表示板は、周囲に比べて一際明るく見えるようにしてドライバーの注意を引くような工夫、すなわち、光源(ヘッドライト)から照射される光を、光が進行してきた方向(光源の方向)へ反射するような工夫が施されています。光源から来た光を、広い照射角にわたって、入射光の光路にほぼ沿う方向へ反射することを、再帰反射と言っています≪※1≫

私達が通常使用する平面鏡は、鏡に入射した光は鏡面反射(正反射)するように作られています。つまり、鏡の面の法線に対して入射角 θ iで入射した光は、法線を挟んで対称な角度(反射角 θ r θ i ) の方向にのみ反射し、その反射角 θ r 以外の方向への反射(拡散反射)の成分はありません。従って、私たちが鏡で自分の顔を見る時は、視線は鏡の正面方向からになります。視線を振って、鏡面の斜め方向から見ると、鏡の中の視界はその鏡面反射方向になり、自分の顔は映らなくなってしまいます。

これに対して、再帰反射を示す反射板の構造は平面ではなく、以下の様な立体構造をとることによって、微視的には鏡面反射を複数回繰り返したり、あるいは屈折と反射の組み合わせの結果、巨視的に見れば光源の方向へ光を反射するような仕掛けになっています。

最も厳密な意味での再帰反射は、コーナーキューブ ( corner cube ) によるものです。コーナーキューブは、3枚の平面鏡を立方体の頂点のように反射面を内側にして互いに直角に組み合わせて配置したものです。

コーナーキューブに入射した光は、個々の面ではそれぞれ鏡面反射をするのですが、複数の面で鏡面反射を順次繰り返した結果、最終的な反射光の進行方向は、元の入射光のやって来た方向に戻って行くことになります。これをいきなり3次元空間で説明すると説明が込み入って分かりにくくなりますので、先ず右図のような、直交させた2枚の平面鏡(コーナーミラー)で説明します。コーナーミラーを稜線方向真上から観察していると考えると、二次元平面での光の進行として考えることができます。

入射光が先ず片方の平面鏡の A 点に入射角 θ で入射するとします。当然鏡面反射しますので入射角と等しい反射角 θ で反射し、もう一枚の平面鏡の B 点に向かって進行します。2枚の平面鏡が直角に配置されていますので、B 点への入射角は 90°- θ となります。従って、B 点での反射角も 90°- θ となり、図から分りますように、B 点での反射光の進行方向は、A 点への入射光と平行で正反対の方向になります。鏡面への入射角度、入射位置が変わっても、この関係は成り立ちます。

コーナーキューブは、コーナーミラーに直角に更にもう一枚のミラーが追加されたもので、上記のコーナーミラーでの反射の説明をそのまま3次元空間での反射に展開適用できます。

コーナーキューブではこの様に、最終的な反射光は、厳密に入射光の反対方向に進行しますので、レーザー光と組み合わせて測量(距離の測定)に用いられることがあります。

アポロ宇宙船(11号等)では月面にコーナーキューブを設置し、地球から発したレーザー光を月面のコーナーキューブで反射させて、月と地球との間をレーザー光が往復する時間を計測することによって、月までの距離を計測したという話は有名です。

冒頭でお話しました、交通標識や夜間の道路警告表示看板、自転車の後部反射板等は、コーナーキューブのような厳密な再帰反射ではなく、反射光は光源方向を中心に或る程度の角度範囲に指向性を持った形で反射するもので、そういう意味から、再帰性反射という言い方をする場合もあります。再帰性があまりに厳密すぎると、光源と観察者の位置が少しずれただけで、反射光を認知できなくなってしまい、返って警告表示の目的を達成できないことになってしまうためです。交通警告表示等に用いられる再帰性反射を実現するためによく使われるのは、ボールレンズの原理を利用した反射シートや反射塗料です。

再帰反射シートと言われるものは、非常に小さい(直径数十~100 μm 程度)高屈折率のガラスビーズ球を樹脂の中に多数均一に混入配置させて厚さ数百 μm のシートに仕上げたものです。また、再帰反射塗料は、塗料の中に同様に高屈折率の微小ガラスビーズ球を均一に混入させたものです

ビーズ球のような透明な球体はレンズ効果を持ちますが、通常のガラス(屈折率 n = 1.5 程度)の場合、一般的には右上図の様な屈折の仕方をして、球の背後に焦点を結びます。この屈折の仕方(屈折角)は、球体の外側の媒質と球体媒質の屈折率比で決まり、球体の屈折率がより大きくなると、右下図のように焦点の位置が球体側に接近していきます。

再帰性反射シートにも色々なタイプがありますが、右図は封入レンズ型と呼ばれるものの断面を拡大して模式的に描いたものです。透明のガラスビーズ球の下半分の近傍に焦点層と呼ばれる層があり、入射光はガラス球のレンズ効果によってこの層内に焦点を結ぶようになっています。更に焦点層を包むように反射層を設けるとともに、ガラスビーズの上半分を無色または着色された表面フィルム層で覆っています。

ガラスビーズは通常のガラスよりも高屈折率のものを使用し≪※2≫、焦点層の厚みを抑え、反射シート全体が厚くならないようにしています。

入射した光がガラスビーズ球の奥の焦点層に焦点を結び、更に反射層に到達し、反射層で反射された光は再度焦点層を通過し、ガラスビーズ球に再入射して屈折進行した結果、最終的な反射光は図のように光源からの入射光とほぼ平行で逆方向の光源方向に向かうことになります。

なお、通常、入射光は車のヘッドライト等の白色光ですが、表面フィルムや焦点層に着色剤を配することによって、反射光はその着色剤の分光透過率特性に応じた色光となります。

入射光は上述の様な光路を取って光源の方向へ再帰反射されるのですが、コーナーキューブのような厳密な再帰反射にはならず、以下の様な要因により再帰反射方向を中心にある程度の角度範囲内に指向性の広がりを持った反射になります。

入射光が反射層の反射面の一点に焦点を結べば再帰性が確保されるのですが、実際にはガラスビーズ球では球面収差が生じる為、光線のガラスビーム球への入射位置によって焦点を結ぶ位置が異なり、反射層面への入射位置が異なってしまいます。焦点層の厚みも完全に一定ではありませんのでやはり反射光の経路にはばらつきが生じます。また、表面フィルムや焦点層を通過する過程では、着色剤によって拡散される成分も生じるため、拡散された成分は主光線とは異なった光路をとります。また、上述では説明を省略しましたが、ガラスビーズ球の界面での反射も生じます。

自転車後部の反射板には、反射塗料や反射シートではなく、コーナーキューブ的な凹凸構造(マイクロプリズム等)を敷き詰めた反射板が使用されていることが多い様ですが、反射板の凹凸構造自体による再帰性反射に加えて、反射板全体を緩やかな凸曲面状にすることも併せて、反射板全体としてある程度の角度範囲の再帰性を持たせています。

注釈
※1 再帰反射に関するJIS
  • JIS Z 8713-1995 再帰性反射体―光学的特性―用語
  • JIS Z 8714-1995 再帰性反射体―光学的特性―測定方法
  • JIS Z 9117-2011 再帰性反射材
※2

再帰反射シート等に用いられるガラスビーズ球は、虹の発生原因となる大気中に浮遊する水滴の役割と似ています。虹は大気中の水滴による屈折・反射によるものですが、水滴の屈折率は1.33程度ですので、水滴で屈折・反射・屈折して出てきた光の進行方向は、(主虹の場合)光源方向に対して40°~42°程度の角度方向になり、再帰反射にはなりません。(光と色の話第一部第19回 「虹の色」参照)

再帰反射シート等では、水滴よりもっと高い屈折率(屈折率2.2程度)のガラスビーズ球を使い、入射光を水滴よりも大きく屈折させることによって再帰性を実現しています。

再帰(再帰性)反射

光と色の話 第二部

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第4回 再帰(再帰性)反射

夜間、車を走らせていると、暗い視界の中、ヘッドライトに交通標識や道路工事の警告表示等の立看板が明るく浮き上がってくることがあります。同じヘッドライトの視界の中でも、一般の立看板等はこれほど明るく明瞭には見えず、ライトが斜めに当たっている場合には猶更暗くなってしまい文字も読みづらくなってしまいます。

また、斜め前方を走っている自転車の場合も、自転車後部の反射板が明るく見える為、注意して運転することになります。これも自転車の反射板に対して、ヘッドライトの方向は斜め方向からになることが殆どですが、反射板は明るく光って見えます。

夜間は暗くて見通しが悪く、道路状況の異常や斜め前方を走る自転車は事故に結びつき易い為、このような警告表示板は、周囲に比べて一際明るく見えるようにしてドライバーの注意を引くような工夫、すなわち、光源(ヘッドライト)から照射される光を、光が進行してきた方向(光源の方向)へ反射するような工夫が施されています。光源から来た光を、広い照射角にわたって、入射光の光路にほぼ沿う方向へ反射することを、再帰反射と言っています≪※1≫

私達が通常使用する平面鏡は、鏡に入射した光は鏡面反射(正反射)するように作られています。つまり、鏡の面の法線に対して入射角 θ iで入射した光は、法線を挟んで対称な角度(反射角 θ r θ i ) の方向にのみ反射し、その反射角 θ r 以外の方向への反射(拡散反射)の成分はありません。従って、私たちが鏡で自分の顔を見る時は、視線は鏡の正面方向からになります。視線を振って、鏡面の斜め方向から見ると、鏡の中の視界はその鏡面反射方向になり、自分の顔は映らなくなってしまいます。

これに対して、再帰反射を示す反射板の構造は平面ではなく、以下の様な立体構造をとることによって、微視的には鏡面反射を複数回繰り返したり、あるいは屈折と反射の組み合わせの結果、巨視的に見れば光源の方向へ光を反射するような仕掛けになっています。

最も厳密な意味での再帰反射は、コーナーキューブ ( corner cube ) によるものです。コーナーキューブは、3枚の平面鏡を立方体の頂点のように反射面を内側にして互いに直角に組み合わせて配置したものです。

コーナーキューブに入射した光は、個々の面ではそれぞれ鏡面反射をするのですが、複数の面で鏡面反射を順次繰り返した結果、最終的な反射光の進行方向は、元の入射光のやって来た方向に戻って行くことになります。これをいきなり3次元空間で説明すると説明が込み入って分かりにくくなりますので、先ず右図のような、直交させた2枚の平面鏡(コーナーミラー)で説明します。コーナーミラーを稜線方向真上から観察していると考えると、二次元平面での光の進行として考えることができます。

入射光が先ず片方の平面鏡の A 点に入射角 θ で入射するとします。当然鏡面反射しますので入射角と等しい反射角 θ で反射し、もう一枚の平面鏡の B 点に向かって進行します。2枚の平面鏡が直角に配置されていますので、B 点への入射角は 90°- θ となります。従って、B 点での反射角も 90°- θ となり、図から分りますように、B 点での反射光の進行方向は、A 点への入射光と平行で正反対の方向になります。鏡面への入射角度、入射位置が変わっても、この関係は成り立ちます。

コーナーキューブは、コーナーミラーに直角に更にもう一枚のミラーが追加されたもので、上記のコーナーミラーでの反射の説明をそのまま3次元空間での反射に展開適用できます。

コーナーキューブではこの様に、最終的な反射光は、厳密に入射光の反対方向に進行しますので、レーザー光と組み合わせて測量(距離の測定)に用いられることがあります。

アポロ宇宙船(11号等)では月面にコーナーキューブを設置し、地球から発したレーザー光を月面のコーナーキューブで反射させて、月と地球との間をレーザー光が往復する時間を計測することによって、月までの距離を計測したという話は有名です。

冒頭でお話しました、交通標識や夜間の道路警告表示看板、自転車の後部反射板等は、コーナーキューブのような厳密な再帰反射ではなく、反射光は光源方向を中心に或る程度の角度範囲に指向性を持った形で反射するもので、そういう意味から、再帰性反射という言い方をする場合もあります。再帰性があまりに厳密すぎると、光源と観察者の位置が少しずれただけで、反射光を認知できなくなってしまい、返って警告表示の目的を達成できないことになってしまうためです。交通警告表示等に用いられる再帰性反射を実現するためによく使われるのは、ボールレンズの原理を利用した反射シートや反射塗料です。

再帰反射シートと言われるものは、非常に小さい(直径数十~100 μm 程度)高屈折率のガラスビーズ球を樹脂の中に多数均一に混入配置させて厚さ数百 μm のシートに仕上げたものです。また、再帰反射塗料は、塗料の中に同様に高屈折率の微小ガラスビーズ球を均一に混入させたものです

ビーズ球のような透明な球体はレンズ効果を持ちますが、通常のガラス(屈折率 n = 1.5 程度)の場合、一般的には右上図の様な屈折の仕方をして、球の背後に焦点を結びます。この屈折の仕方(屈折角)は、球体の外側の媒質と球体媒質の屈折率比で決まり、球体の屈折率がより大きくなると、右下図のように焦点の位置が球体側に接近していきます。

再帰性反射シートにも色々なタイプがありますが、右図は封入レンズ型と呼ばれるものの断面を拡大して模式的に描いたものです。透明のガラスビーズ球の下半分の近傍に焦点層と呼ばれる層があり、入射光はガラス球のレンズ効果によってこの層内に焦点を結ぶようになっています。更に焦点層を包むように反射層を設けるとともに、ガラスビーズの上半分を無色または着色された表面フィルム層で覆っています。

ガラスビーズは通常のガラスよりも高屈折率のものを使用し≪※2≫、焦点層の厚みを抑え、反射シート全体が厚くならないようにしています。

入射した光がガラスビーズ球の奥の焦点層に焦点を結び、更に反射層に到達し、反射層で反射された光は再度焦点層を通過し、ガラスビーズ球に再入射して屈折進行した結果、最終的な反射光は図のように光源からの入射光とほぼ平行で逆方向の光源方向に向かうことになります。

なお、通常、入射光は車のヘッドライト等の白色光ですが、表面フィルムや焦点層に着色剤を配することによって、反射光はその着色剤の分光透過率特性に応じた色光となります。

入射光は上述の様な光路を取って光源の方向へ再帰反射されるのですが、コーナーキューブのような厳密な再帰反射にはならず、以下の様な要因により再帰反射方向を中心にある程度の角度範囲内に指向性の広がりを持った反射になります。

入射光が反射層の反射面の一点に焦点を結べば再帰性が確保されるのですが、実際にはガラスビーズ球では球面収差が生じる為、光線のガラスビーム球への入射位置によって焦点を結ぶ位置が異なり、反射層面への入射位置が異なってしまいます。焦点層の厚みも完全に一定ではありませんのでやはり反射光の経路にはばらつきが生じます。また、表面フィルムや焦点層を通過する過程では、着色剤によって拡散される成分も生じるため、拡散された成分は主光線とは異なった光路をとります。また、上述では説明を省略しましたが、ガラスビーズ球の界面での反射も生じます。

自転車後部の反射板には、反射塗料や反射シートではなく、コーナーキューブ的な凹凸構造(マイクロプリズム等)を敷き詰めた反射板が使用されていることが多い様ですが、反射板の凹凸構造自体による再帰性反射に加えて、反射板全体を緩やかな凸曲面状にすることも併せて、反射板全体としてある程度の角度範囲の再帰性を持たせています。

注釈
※1 再帰反射に関するJIS
  • JIS Z 8713-1995 再帰性反射体―光学的特性―用語
  • JIS Z 8714-1995 再帰性反射体―光学的特性―測定方法
  • JIS Z 9117-2011 再帰性反射材
※2

再帰反射シート等に用いられるガラスビーズ球は、虹の発生原因となる大気中に浮遊する水滴の役割と似ています。虹は大気中の水滴による屈折・反射によるものですが、水滴の屈折率は1.33程度ですので、水滴で屈折・反射・屈折して出てきた光の進行方向は、(主虹の場合)光源方向に対して40°~42°程度の角度方向になり、再帰反射にはなりません。(光と色の話第一部第19回 「虹の色」参照)

再帰反射シート等では、水滴よりもっと高い屈折率(屈折率2.2程度)のガラスビーズ球を使い、入射光を水滴よりも大きく屈折させることによって再帰性を実現しています。

再帰(再帰性)反射

光と色の話 第二部

光と色の話 第二部

第4回 再帰(再帰性)反射

夜間、車を走らせていると、暗い視界の中、ヘッドライトに交通標識や道路工事の警告表示等の立看板が明るく浮き上がってくることがあります。同じヘッドライトの視界の中でも、一般の立看板等はこれほど明るく明瞭には見えず、ライトが斜めに当たっている場合には猶更暗くなってしまい文字も読みづらくなってしまいます。

また、斜め前方を走っている自転車の場合も、自転車後部の反射板が明るく見える為、注意して運転することになります。これも自転車の反射板に対して、ヘッドライトの方向は斜め方向からになることが殆どですが、反射板は明るく光って見えます。

夜間は暗くて見通しが悪く、道路状況の異常や斜め前方を走る自転車は事故に結びつき易い為、このような警告表示板は、周囲に比べて一際明るく見えるようにしてドライバーの注意を引くような工夫、すなわち、光源(ヘッドライト)から照射される光を、光が進行してきた方向(光源の方向)へ反射するような工夫が施されています。光源から来た光を、広い照射角にわたって、入射光の光路にほぼ沿う方向へ反射することを、再帰反射と言っています≪※1≫

私達が通常使用する平面鏡は、鏡に入射した光は鏡面反射(正反射)するように作られています。つまり、鏡の面の法線に対して入射角 θ iで入射した光は、法線を挟んで対称な角度(反射角 θ r θ i ) の方向にのみ反射し、その反射角 θ r 以外の方向への反射(拡散反射)の成分はありません。従って、私たちが鏡で自分の顔を見る時は、視線は鏡の正面方向からになります。視線を振って、鏡面の斜め方向から見ると、鏡の中の視界はその鏡面反射方向になり、自分の顔は映らなくなってしまいます。

これに対して、再帰反射を示す反射板の構造は平面ではなく、以下の様な立体構造をとることによって、微視的には鏡面反射を複数回繰り返したり、あるいは屈折と反射の組み合わせの結果、巨視的に見れば光源の方向へ光を反射するような仕掛けになっています。

最も厳密な意味での再帰反射は、コーナーキューブ ( corner cube ) によるものです。コーナーキューブは、3枚の平面鏡を立方体の頂点のように反射面を内側にして互いに直角に組み合わせて配置したものです。

コーナーキューブに入射した光は、個々の面ではそれぞれ鏡面反射をするのですが、複数の面で鏡面反射を順次繰り返した結果、最終的な反射光の進行方向は、元の入射光のやって来た方向に戻って行くことになります。これをいきなり3次元空間で説明すると説明が込み入って分かりにくくなりますので、先ず右図のような、直交させた2枚の平面鏡(コーナーミラー)で説明します。コーナーミラーを稜線方向真上から観察していると考えると、二次元平面での光の進行として考えることができます。

入射光が先ず片方の平面鏡の A 点に入射角 θ で入射するとします。当然鏡面反射しますので入射角と等しい反射角 θ で反射し、もう一枚の平面鏡の B 点に向かって進行します。2枚の平面鏡が直角に配置されていますので、B 点への入射角は 90°- θ となります。従って、B 点での反射角も 90°- θ となり、図から分りますように、B 点での反射光の進行方向は、A 点への入射光と平行で正反対の方向になります。鏡面への入射角度、入射位置が変わっても、この関係は成り立ちます。

コーナーキューブは、コーナーミラーに直角に更にもう一枚のミラーが追加されたもので、上記のコーナーミラーでの反射の説明をそのまま3次元空間での反射に展開適用できます。

コーナーキューブではこの様に、最終的な反射光は、厳密に入射光の反対方向に進行しますので、レーザー光と組み合わせて測量(距離の測定)に用いられることがあります。

アポロ宇宙船(11号等)では月面にコーナーキューブを設置し、地球から発したレーザー光を月面のコーナーキューブで反射させて、月と地球との間をレーザー光が往復する時間を計測することによって、月までの距離を計測したという話は有名です。

冒頭でお話しました、交通標識や夜間の道路警告表示看板、自転車の後部反射板等は、コーナーキューブのような厳密な再帰反射ではなく、反射光は光源方向を中心に或る程度の角度範囲に指向性を持った形で反射するもので、そういう意味から、再帰性反射という言い方をする場合もあります。再帰性があまりに厳密すぎると、光源と観察者の位置が少しずれただけで、反射光を認知できなくなってしまい、返って警告表示の目的を達成できないことになってしまうためです。交通警告表示等に用いられる再帰性反射を実現するためによく使われるのは、ボールレンズの原理を利用した反射シートや反射塗料です。

再帰反射シートと言われるものは、非常に小さい(直径数十~100 μm 程度)高屈折率のガラスビーズ球を樹脂の中に多数均一に混入配置させて厚さ数百 μm のシートに仕上げたものです。また、再帰反射塗料は、塗料の中に同様に高屈折率の微小ガラスビーズ球を均一に混入させたものです

ビーズ球のような透明な球体はレンズ効果を持ちますが、通常のガラス(屈折率 n = 1.5 程度)の場合、一般的には右上図の様な屈折の仕方をして、球の背後に焦点を結びます。この屈折の仕方(屈折角)は、球体の外側の媒質と球体媒質の屈折率比で決まり、球体の屈折率がより大きくなると、右下図のように焦点の位置が球体側に接近していきます。

再帰性反射シートにも色々なタイプがありますが、右図は封入レンズ型と呼ばれるものの断面を拡大して模式的に描いたものです。透明のガラスビーズ球の下半分の近傍に焦点層と呼ばれる層があり、入射光はガラス球のレンズ効果によってこの層内に焦点を結ぶようになっています。更に焦点層を包むように反射層を設けるとともに、ガラスビーズの上半分を無色または着色された表面フィルム層で覆っています。

ガラスビーズは通常のガラスよりも高屈折率のものを使用し≪※2≫、焦点層の厚みを抑え、反射シート全体が厚くならないようにしています。

入射した光がガラスビーズ球の奥の焦点層に焦点を結び、更に反射層に到達し、反射層で反射された光は再度焦点層を通過し、ガラスビーズ球に再入射して屈折進行した結果、最終的な反射光は図のように光源からの入射光とほぼ平行で逆方向の光源方向に向かうことになります。

なお、通常、入射光は車のヘッドライト等の白色光ですが、表面フィルムや焦点層に着色剤を配することによって、反射光はその着色剤の分光透過率特性に応じた色光となります。

入射光は上述の様な光路を取って光源の方向へ再帰反射されるのですが、コーナーキューブのような厳密な再帰反射にはならず、以下の様な要因により再帰反射方向を中心にある程度の角度範囲内に指向性の広がりを持った反射になります。

入射光が反射層の反射面の一点に焦点を結べば再帰性が確保されるのですが、実際にはガラスビーズ球では球面収差が生じる為、光線のガラスビーム球への入射位置によって焦点を結ぶ位置が異なり、反射層面への入射位置が異なってしまいます。焦点層の厚みも完全に一定ではありませんのでやはり反射光の経路にはばらつきが生じます。また、表面フィルムや焦点層を通過する過程では、着色剤によって拡散される成分も生じるため、拡散された成分は主光線とは異なった光路をとります。また、上述では説明を省略しましたが、ガラスビーズ球の界面での反射も生じます。

自転車後部の反射板には、反射塗料や反射シートではなく、コーナーキューブ的な凹凸構造(マイクロプリズム等)を敷き詰めた反射板が使用されていることが多い様ですが、反射板の凹凸構造自体による再帰性反射に加えて、反射板全体を緩やかな凸曲面状にすることも併せて、反射板全体としてある程度の角度範囲の再帰性を持たせています。

注釈
※1 再帰反射に関するJIS
  • JIS Z 8713-1995 再帰性反射体―光学的特性―用語
  • JIS Z 8714-1995 再帰性反射体―光学的特性―測定方法
  • JIS Z 9117-2011 再帰性反射材
※2

再帰反射シート等に用いられるガラスビーズ球は、虹の発生原因となる大気中に浮遊する水滴の役割と似ています。虹は大気中の水滴による屈折・反射によるものですが、水滴の屈折率は1.33程度ですので、水滴で屈折・反射・屈折して出てきた光の進行方向は、(主虹の場合)光源方向に対して40°~42°程度の角度方向になり、再帰反射にはなりません。(光と色の話第一部第19回 「虹の色」参照)

再帰反射シート等では、水滴よりもっと高い屈折率(屈折率2.2程度)のガラスビーズ球を使い、入射光を水滴よりも大きく屈折させることによって再帰性を実現しています。

再帰(再帰性)反射

Q1.参考になりましたか?
Q2.次回連載を期待されますか?
Q3.連載の感想がありましたらご記入ください。

アンケートにご協力いただきありがとうございました。