光と色の話 第二部

光と色の話 第二部

第14回 ヒトの色覚と動物の色覚

私達は、この世に生まれてからずっと身の周りの色に囲まれて生活してきていますので、色が見えて当たり前という日常感覚で毎日を送っています。同じような周囲環境の中で、人間以外の多くの動物も生きており、動物も私達人間と同じような色を見ているとつい思いがちですが、実際にはそうではありません。

人間同士でも、同じ物を見ていても、他人が見ている色と自分が見ている色が全く同じ色に見えているのかは、確認のしようがありません※1。人間は、日常生活の経験の積み重ねや、諸々の客観的事象から、相互のコミュニケーションを通じて他人も概ね自分と同じように色を認識していると推定している(思い込んでいる)のが実情です。ただ、人間同士の間でも、( 第一部第15回でお話ししましたように)色覚異常者の場合の色の認識は、一般の多数派(色覚正常者)とは異なっており、他者とのコミュニケーションを通じて、どうやら自分の色の認識の仕方が他人と異なっているのではないかと気づく場合が殆どです。軽度の色覚異常の場合には日常生活の中では気付かないということも多く、色覚検査を受けて初めてわかるということも珍しくありません。ましてや、人間との間で細かいコミュニケーションの成り立たない動物がどのような色の認識をしているかは、簡単に確認することは非常に難しいと言えます。

動物の色覚に対する研究

これまで、多くの学者の研究を通じて、動物の種類によって色覚の特性が異なっていることが或る程度明らかになってきています。人間の場合には視神経に電極を付けて眼から脳へ送られる信号を直接測定するようなことは人道上困難ですが、動物の場合には(人間のエゴかもしれませんが)ある程度可能で、神経生理学的・電気生理学的に解析する研究もなされています。また、視細胞が光の刺激を受けることによって発生する視物質を化学的に分析したり、視覚に関係する遺伝子を解析することによっても研究されています。また、そのような直接的な方法とは別に、動物に様々な色試料を見せてその反応を解析する行動学的研究等によっても実証的な実験結果から、それぞれの動物毎の凡その色覚特性が推定されています。

人間以外の動物はどんな色の世界に棲んでいるのでしょうか。
地球には様々な動物が生息していますが、それらの動物の感覚(視覚に限らず、聴覚、嗅覚、味覚、触覚などの感覚)は、動物の種類それぞれが選択適応した様々な自然環境の中で生き抜いていく中で、必要な感覚は進化して研ぎ澄まされ、それほど必要ではない感覚は退化していった結果、その種特有の感覚特性を獲得したものと言えます。動物の種類によって、その生態は千差万別で、地球上のありとあらゆる自然環境の中で、どのような環境に適応して生きているのかによって、その視覚特性は様々です。

色覚の型

現代の人類は視覚を構成する視細胞として杆体(暗視野で機能し、明暗のみを知覚)と錐体(明視野で機能し、明暗と色を知覚)を持っており、可視域内での分光応答度の異なる3種の錐体(S錐体、M錐体、L錐体)をセンサーとする色覚機能を得ています。つまり現代人は色覚を司る視細胞(錐体)の種類が3種であることから、一般には3色型色覚であるとされています※2

色覚を構成する錐体の種類数は、動物の種類によって様々で、1色型から4色型まで様々あることが知られています※3。それぞれの動物の生息する環境への適応の仕方によってこれらの色覚が形成されていったものと考えられ、動物の種類毎にその「可視域」は異なっています。後述しますように、美しい花や果実等に寄り集まる昆虫類や、大空から大地を見渡す鳥類等の中には4色型のものも多いとされており、これらの動物には近紫外領域にまで感度をもつ錐体を持っいるものも多いということです。

色覚の型が同一であっても、例えば同じ「3色型」であっても、動物の種類によって各錐体の分光応答度特性や感度レベルはそれぞれ異なっていますので、同じ物を見ていても同じ色として認識しているか……例えば人間が緑色と感じている色が、動物も人間が感じているのと同じ緑色として感じているか……どうかは分かりません。また、人間よりも錐体の種類が多い4色型の動物がどのような色の世界に棲んでいるのかは非常に興味深いものではありますが、想像を超えるものと言えましょう。

一方、それぞれの生息環境の下で生きていくための情報収集手段として、色彩情報に頼る必要性が少ない動物(夜行性動物等)は、視覚が進化することなく、2色型や1色型であるものが多い様です。

人類の色覚特性獲得の歴史

ところで、人類はどのような経緯で現在の視覚能力を獲得してきたのでしょうか。地球の長い長い歴史の中で、時代的にもまた地域的にも、様々な環境条件に対して、動物の種類毎に環境への適応の仕方は異なっており、そこで生きていく(種を保存していく)のに適した視覚特性が形成されていったものと考えられます。

地球上に生命が誕生して以降、動物が視覚能力を獲得したのは脊椎動物が誕生するよりはるかずっと以前の太古の時代であり、近紫外~青の辺りの波長域に対する視覚(S錐体の原型)が最初であったと言われています。やがて脊椎動物の祖先が現れ、更に魚類、両生類、鳥類、爬虫類が順に分化していく過程を経て、我々人類の属する哺乳類の祖先が現れたと考えられています。この進化の過程で、それぞれの動物がその生息環境に適応していく中で、色覚もその環境に有利な情報獲得手段として最適化して行ったものです。こうした脊椎動物の進化の過程で、鳥類や爬虫類の中には4色型にまで進化していったものもあると言われています。

脊椎動物の色覚

しかし哺乳類は、恐竜などの跋扈した中生代には夜行性の生活をするようになり、それに応じて視細胞も杆体の性能が発達し、4種類あった錐体の内2種類が退化して失われ、S錐体とL錐体からなる2色型に退化したと考えられています。この様な中で、恐竜の衰退に伴って霊長類の祖先であるサルの中に、再び昼行性に移行していくものが現れたと考えられます。そのサルの中に、突然変異によってL錐体よりも短波長側に感度のある錐体(M錐体)を取得したものが現れ、それが昼間の樹上生活にうまく適していたため、種の保存・発展に大きく貢献し、現在の人類の3色型に受け継がれていったのではないかと考えられています。

つまり、S錐体とL錐体の2型二色覚(旧来の言い方では“赤緑色盲”)の場合、本連載第一部第15回でお話ししました様に、例えば 緑~黄緑~黄~橙~赤 の区別がつかないという色覚となりますから、M錐体を獲得したサルは、樹上生活をする中で、緑の木の葉の中から、熟した赤い果実や黄緑色の若芽を探し易いということで、生きていく上で非常に有利な視覚を得たことになったのではないかということです※4。これは、鳥類の中で、果実を食料とする種類に4色型が多い事の要因でもある様です。更に、ヒトやサルの場合、顔色の微妙な変化(血色の良し悪し)を敏感に察知し易いといった様なメリットもあると考えられています。

このような人類の進化の歴史の中で、最後に獲得したのがM錐体であり、M錐体の遺伝子は遺伝子細胞の最も先端部に位置しているため、3種の錐体遺伝子の内で最も損傷を受けやすいということが言えます。そのため、現代人の色覚障害には2型障害(M錐体の欠落)が多いという現象に繋がっているといえます。

一方、哺乳類の中で、イヌやネコなどの多くの動物は、祖先から引き継いだ夜行性主体の生活の中で、嗅覚や聴覚は非常に鋭く進化してきたのに対して、視覚はあまり進化せず、2色型のまま現代に至っているものと考えられます。従って、人間で言えば(M錐体が欠落した)2型2色覚の色覚異常者と似通った色の世界で生きているものと推定されます。

「色」を介した植物と動物との共生

脊椎動物以外の動物、例えば昆虫の色覚も興味深いものがあります。
植物が花を咲かせ実を結び、その結果得られた種子によって次の世代へと種の保存のサイクルを回していることは周知のことです。なぜ花を咲かせるのかと言えば、実を結ぶためには受粉が必要で、そのための一つの方法として動物の助けを得る植物・・・虫媒花や鳥媒花と呼ばれる花・・・が存在することはよく知られています。

虫媒花、鳥媒花などと言われるものは、蜜や花粉で虫や鳥などの動物を誘い込み、粘り気のある花粉を動物の体表に付着させ、その動物の動きを借りて受粉を成し遂げるものです。これらの花は一般に目立つ色彩をしており、また良い香りを発したりしているものが殆どです。植物の側から考えれば、受粉は種の保存にとっての必須条件で、そのための手段として、これらの動物を引き付けるためは、蜜や花粉を提供する花の色はできるだけ目立ち易い方が有利です。

花に寄り付く虫や鳥は、(結果的に受粉を手伝わされているとは知らない?ままに)食糧源の蜜や花粉を出す植物を見つけ出す手段として色覚を発達させていき、植物と動物が互いに依存しながら共に進化していった、という見方もできるように思います。

植物の葉の色は、第一部第13回で説明しました通り、光合成活動の結果として緑色をしています。従って、虫媒花や鳥媒花は、背景にある葉の緑色に対して目立つ色でなければならず、従って緑系統以外の鮮やかな色彩の物が多い訳です。動物を利用しない受粉を選択した植物として、花粉の媒介を風に頼る風媒花(稲や麦など)がありますが、これらの植物は、動物に頼ることはないため、その花は一般に地味で目立たず、また良い香りを発するものでもないのが普通です。

蝶

ハチドリ

近紫外も見える動物

一般に、虫媒花の受粉を手伝わされる蝶や蜂などの昆虫は、色覚が発達しており、3色型や4色型の色覚を持つものが多いといわれています。これらの内の4色型の昆虫や鳥類の色覚が我々人間の色覚と大きく異なっているのは、特に近紫外域にも感度を持つ錐体を持っていることです。

モンシロチョウの雄と雌の外見上の違いは、人間の目で見ると、胴体の両側の羽の付け根近傍の黒みを帯びた領域の面積が雌の方がやや広いのですが、空中を飛んでいる状態では同じように見えて雄雌の区別はなかなか難しいですね。ところがモンシロチョウの目で見ると、雄と雌は一目瞭然に区別できる様なのです。それは、人間の目には白く見える羽の鱗粉の近紫外域反射率が、雄と雌で大きく異なっており、雄の反射率は低く、雌の反射率は高くなっているのです。つまりモンシロチョウの視覚は近紫外域にも感度があるため、(実際にどのような「色」として認識しているかはわかりませんが)雄は暗く、雌は明るく見えて、容易に区別ができるということになります。菜の花畑の上で雌のモンシロチョウが遊んでいると、遠くからでも雄のモンシロチョウが容易に見つけることができるため、菜の花畑の上でランデブーが始まるという訳ですね。

註釈
※1

一人の人間に対して複数の色が同じ色に見えているか異なる色に見えているかについては確認できますが、他人がどのように見えているかについては確認のしようがありません。

※2

色覚異常者には2色型、1色型の人もいます。

※3

5色型まであるという説もあるようです。

※4

サルの中でも葉を主食とする種類は、果実の色を見分ける必要度が低いため、2色型のまま今に至っていると考えられます。

ヒトの色覚と動物の色覚

光と色の話 第二部

光と色の話 第二部

第14回 ヒトの色覚と動物の色覚

私達は、この世に生まれてからずっと身の周りの色に囲まれて生活してきていますので、色が見えて当たり前という日常感覚で毎日を送っています。同じような周囲環境の中で、人間以外の多くの動物も生きており、動物も私達人間と同じような色を見ているとつい思いがちですが、実際にはそうではありません。

人間同士でも、同じ物を見ていても、他人が見ている色と自分が見ている色が全く同じ色に見えているのかは、確認のしようがありません※1。人間は、日常生活の経験の積み重ねや、諸々の客観的事象から、相互のコミュニケーションを通じて他人も概ね自分と同じように色を認識していると推定している(思い込んでいる)のが実情です。ただ、人間同士の間でも、( 第一部第15回でお話ししましたように)色覚異常者の場合の色の認識は、一般の多数派(色覚正常者)とは異なっており、他者とのコミュニケーションを通じて、どうやら自分の色の認識の仕方が他人と異なっているのではないかと気づく場合が殆どです。軽度の色覚異常の場合には日常生活の中では気付かないということも多く、色覚検査を受けて初めてわかるということも珍しくありません。ましてや、人間との間で細かいコミュニケーションの成り立たない動物がどのような色の認識をしているかは、簡単に確認することは非常に難しいと言えます。

動物の色覚に対する研究

これまで、多くの学者の研究を通じて、動物の種類によって色覚の特性が異なっていることが或る程度明らかになってきています。人間の場合には視神経に電極を付けて眼から脳へ送られる信号を直接測定するようなことは人道上困難ですが、動物の場合には(人間のエゴかもしれませんが)ある程度可能で、神経生理学的・電気生理学的に解析する研究もなされています。また、視細胞が光の刺激を受けることによって発生する視物質を化学的に分析したり、視覚に関係する遺伝子を解析することによっても研究されています。また、そのような直接的な方法とは別に、動物に様々な色試料を見せてその反応を解析する行動学的研究等によっても実証的な実験結果から、それぞれの動物毎の凡その色覚特性が推定されています。

人間以外の動物はどんな色の世界に棲んでいるのでしょうか。
地球には様々な動物が生息していますが、それらの動物の感覚(視覚に限らず、聴覚、嗅覚、味覚、触覚などの感覚)は、動物の種類それぞれが選択適応した様々な自然環境の中で生き抜いていく中で、必要な感覚は進化して研ぎ澄まされ、それほど必要ではない感覚は退化していった結果、その種特有の感覚特性を獲得したものと言えます。動物の種類によって、その生態は千差万別で、地球上のありとあらゆる自然環境の中で、どのような環境に適応して生きているのかによって、その視覚特性は様々です。

色覚の型

現代の人類は視覚を構成する視細胞として杆体(暗視野で機能し、明暗のみを知覚)と錐体(明視野で機能し、明暗と色を知覚)を持っており、可視域内での分光応答度の異なる3種の錐体(S錐体、M錐体、L錐体)をセンサーとする色覚機能を得ています。つまり現代人は色覚を司る視細胞(錐体)の種類が3種であることから、一般には3色型色覚であるとされています※2

色覚を構成する錐体の種類数は、動物の種類によって様々で、1色型から4色型まで様々あることが知られています※3。それぞれの動物の生息する環境への適応の仕方によってこれらの色覚が形成されていったものと考えられ、動物の種類毎にその「可視域」は異なっています。後述しますように、美しい花や果実等に寄り集まる昆虫類や、大空から大地を見渡す鳥類等の中には4色型のものも多いとされており、これらの動物には近紫外領域にまで感度をもつ錐体を持っいるものも多いということです。

色覚の型が同一であっても、例えば同じ「3色型」であっても、動物の種類によって各錐体の分光応答度特性や感度レベルはそれぞれ異なっていますので、同じ物を見ていても同じ色として認識しているか……例えば人間が緑色と感じている色が、動物も人間が感じているのと同じ緑色として感じているか……どうかは分かりません。また、人間よりも錐体の種類が多い4色型の動物がどのような色の世界に棲んでいるのかは非常に興味深いものではありますが、想像を超えるものと言えましょう。

一方、それぞれの生息環境の下で生きていくための情報収集手段として、色彩情報に頼る必要性が少ない動物(夜行性動物等)は、視覚が進化することなく、2色型や1色型であるものが多い様です。

人類の色覚特性獲得の歴史

ところで、人類はどのような経緯で現在の視覚能力を獲得してきたのでしょうか。地球の長い長い歴史の中で、時代的にもまた地域的にも、様々な環境条件に対して、動物の種類毎に環境への適応の仕方は異なっており、そこで生きていく(種を保存していく)のに適した視覚特性が形成されていったものと考えられます。

地球上に生命が誕生して以降、動物が視覚能力を獲得したのは脊椎動物が誕生するよりはるかずっと以前の太古の時代であり、近紫外~青の辺りの波長域に対する視覚(S錐体の原型)が最初であったと言われています。やがて脊椎動物の祖先が現れ、更に魚類、両生類、鳥類、爬虫類が順に分化していく過程を経て、我々人類の属する哺乳類の祖先が現れたと考えられています。この進化の過程で、それぞれの動物がその生息環境に適応していく中で、色覚もその環境に有利な情報獲得手段として最適化して行ったものです。こうした脊椎動物の進化の過程で、鳥類や爬虫類の中には4色型にまで進化していったものもあると言われています。

脊椎動物の色覚

しかし哺乳類は、恐竜などの跋扈した中生代には夜行性の生活をするようになり、それに応じて視細胞も杆体の性能が発達し、4種類あった錐体の内2種類が退化して失われ、S錐体とL錐体からなる2色型に退化したと考えられています。この様な中で、恐竜の衰退に伴って霊長類の祖先であるサルの中に、再び昼行性に移行していくものが現れたと考えられます。そのサルの中に、突然変異によってL錐体よりも短波長側に感度のある錐体(M錐体)を取得したものが現れ、それが昼間の樹上生活にうまく適していたため、種の保存・発展に大きく貢献し、現在の人類の3色型に受け継がれていったのではないかと考えられています。

つまり、S錐体とL錐体の2型二色覚(旧来の言い方では“赤緑色盲”)の場合、本連載第一部第15回でお話ししました様に、例えば 緑~黄緑~黄~橙~赤 の区別がつかないという色覚となりますから、M錐体を獲得したサルは、樹上生活をする中で、緑の木の葉の中から、熟した赤い果実や黄緑色の若芽を探し易いということで、生きていく上で非常に有利な視覚を得たことになったのではないかということです※4。これは、鳥類の中で、果実を食料とする種類に4色型が多い事の要因でもある様です。更に、ヒトやサルの場合、顔色の微妙な変化(血色の良し悪し)を敏感に察知し易いといった様なメリットもあると考えられています。

このような人類の進化の歴史の中で、最後に獲得したのがM錐体であり、M錐体の遺伝子は遺伝子細胞の最も先端部に位置しているため、3種の錐体遺伝子の内で最も損傷を受けやすいということが言えます。そのため、現代人の色覚障害には2型障害(M錐体の欠落)が多いという現象に繋がっているといえます。

一方、哺乳類の中で、イヌやネコなどの多くの動物は、祖先から引き継いだ夜行性主体の生活の中で、嗅覚や聴覚は非常に鋭く進化してきたのに対して、視覚はあまり進化せず、2色型のまま現代に至っているものと考えられます。従って、人間で言えば(M錐体が欠落した)2型2色覚の色覚異常者と似通った色の世界で生きているものと推定されます。

「色」を介した植物と動物との共生

脊椎動物以外の動物、例えば昆虫の色覚も興味深いものがあります。
植物が花を咲かせ実を結び、その結果得られた種子によって次の世代へと種の保存のサイクルを回していることは周知のことです。なぜ花を咲かせるのかと言えば、実を結ぶためには受粉が必要で、そのための一つの方法として動物の助けを得る植物・・・虫媒花や鳥媒花と呼ばれる花・・・が存在することはよく知られています。

虫媒花、鳥媒花などと言われるものは、蜜や花粉で虫や鳥などの動物を誘い込み、粘り気のある花粉を動物の体表に付着させ、その動物の動きを借りて受粉を成し遂げるものです。これらの花は一般に目立つ色彩をしており、また良い香りを発したりしているものが殆どです。植物の側から考えれば、受粉は種の保存にとっての必須条件で、そのための手段として、これらの動物を引き付けるためは、蜜や花粉を提供する花の色はできるだけ目立ち易い方が有利です。

花に寄り付く虫や鳥は、(結果的に受粉を手伝わされているとは知らない?ままに)食糧源の蜜や花粉を出す植物を見つけ出す手段として色覚を発達させていき、植物と動物が互いに依存しながら共に進化していった、という見方もできるように思います。

植物の葉の色は、第一部第13回で説明しました通り、光合成活動の結果として緑色をしています。従って、虫媒花や鳥媒花は、背景にある葉の緑色に対して目立つ色でなければならず、従って緑系統以外の鮮やかな色彩の物が多い訳です。動物を利用しない受粉を選択した植物として、花粉の媒介を風に頼る風媒花(稲や麦など)がありますが、これらの植物は、動物に頼ることはないため、その花は一般に地味で目立たず、また良い香りを発するものでもないのが普通です。

蝶

ハチドリ

近紫外も見える動物

一般に、虫媒花の受粉を手伝わされる蝶や蜂などの昆虫は、色覚が発達しており、3色型や4色型の色覚を持つものが多いといわれています。これらの内の4色型の昆虫や鳥類の色覚が我々人間の色覚と大きく異なっているのは、特に近紫外域にも感度を持つ錐体を持っていることです。

モンシロチョウの雄と雌の外見上の違いは、人間の目で見ると、胴体の両側の羽の付け根近傍の黒みを帯びた領域の面積が雌の方がやや広いのですが、空中を飛んでいる状態では同じように見えて雄雌の区別はなかなか難しいですね。ところがモンシロチョウの目で見ると、雄と雌は一目瞭然に区別できる様なのです。それは、人間の目には白く見える羽の鱗粉の近紫外域反射率が、雄と雌で大きく異なっており、雄の反射率は低く、雌の反射率は高くなっているのです。つまりモンシロチョウの視覚は近紫外域にも感度があるため、(実際にどのような「色」として認識しているかはわかりませんが)雄は暗く、雌は明るく見えて、容易に区別ができるということになります。菜の花畑の上で雌のモンシロチョウが遊んでいると、遠くからでも雄のモンシロチョウが容易に見つけることができるため、菜の花畑の上でランデブーが始まるという訳ですね。

註釈
※1

一人の人間に対して複数の色が同じ色に見えているか異なる色に見えているかについては確認できますが、他人がどのように見えているかについては確認のしようがありません。

※2

色覚異常者には2色型、1色型の人もいます。

※3

5色型まであるという説もあるようです。

※4

サルの中でも葉を主食とする種類は、果実の色を見分ける必要度が低いため、2色型のまま今に至っていると考えられます。

ヒトの色覚と動物の色覚

Q1.参考になりましたか?
Q2.次回連載を期待されますか?
Q3.連載の感想がありましたらご記入ください。

アンケートにご協力いただきありがとうございました。