光と色の話 第一部

光と色の話 第一部

第17回 混色(その2)

・・・・・同時加法混色、減法混色の応用例・・・・・

はじめに

前回(第 16 回)は、同時加法混色および減法混色の原理について、その考え方を模式的に説明致しました。今回は、これらの原理が実際にどのようなものに応用されているか、例を挙げてお話してみます。原理説明では、三原色(加法混色では B 、G 、R 、減法混色では Y 、M 、C )で説明しましたが、実際の応用では、必ずしも三原色の混色に限定する必要は無く、任意の異なる色同士に対してもこれらの混色原理は適用されます※1。今回は、同時加法混色の応用例として、白色発光ダイオード( LED )を、減法混色の応用例としてカラー写真(銀塩写真)とカラー印刷を採り上げてみましょう。

同時加法混色の応用例
白色 LED

20 世紀末に青色LEDが発明され、それまでに実用化されていた緑、赤の LED を合わせて加法混色の三原色が揃ったことにより、私たちの日常生活に直結した LED の応用が一気に加速し、今日も急速に開発・改善・普及が進展しています。特に LED は従来型光源に比較して低消費電力・長寿命という特長もあって、白色 LED が大きな期待をもって世に受け入れられつつあります。弊社は LED 照明装置の専門メーカーとして、これまで白色 LED を用いた照明製品群を多数世の中に送り出してきています。

白色 LED の原理

LED は、本来はその分光分布が狭い波長範囲に集中しているため、単色光に近い光源(可視域では有色光源)です。従って、可視域全体(少なくとも B 、G 、R )に亘ってエネルギー成分を持つ必要がある白色に対しては、特別な「仕掛け」を設けなければ実現できません。この「仕掛け」には幾通りかの方式があります。

① マルチチップ LED 方式

複数色の LED チップを同一パッケージ内に隣接実装して発光させ、同時加法混色により白色を得る方式です。

【補色方式】

補色関係にある二色、例えば、青 ( B ) と黄 ( Y )の LED チップを組み合わせる方式です。※2

【三原色 BGR 方式】

三原色の青 ( B ) 、緑 ( G ) 、赤 ( R ) の LED チップを使用し、同時に光らせて混色させることによって白色を得ます。

② シングルチップLED方式(蛍光励起方式)

青またはそれよりも波長の短い LED(紫LEDや近紫外 LED )と蛍光体との組合せで白色を得る方式です。蛍光体に、ある波長の光を照射すると、照射光(これを励起光と呼びます)の波長より長い波長の蛍光が発生します。励起光源の LED を直接(あるいはその直前を)蛍光体で覆うことによって、蛍光と蛍光体層を透過した励起光の同時加法混色により白色が達成されます。

【補色蛍光方式(青励起光+黄蛍光)】

青LEDを蛍光体に照射して黄色の蛍光を発生させ、補色関係(青と黄)の同時加法混色によって、白を実現しています

( B + Y = W ) 。エネルギー変換効率が良く、これまでの白色 LED はこの方式が主流でした。青 LED の励起光でイットリウム・アルミニウム・ガーネット( Yttrium Aluminum Garnet )という蛍光体により黄色の蛍光を発生させることから通称、Blue - YAG 型とも呼ばれています。

【三原色蛍光方式(紫 or 近紫外励起光 + BGR 蛍光)】

励起光として、近紫外あるいは紫色の LED を用い、B 、G 、R の蛍光を発生させる 3 種の蛍光体で励起用 LED を覆ったものです。

当社の「自然光 LED 」は、波長 405 nm の紫色 LED を励起光源として、B 、G 、R の 3 種の蛍光を発生させる蛍光体を用いることによって、可視域全域に亘っての連続スペクトルを実現しています。分光分布に他の方式による白色 LED のような極端な凹凸が無いことから、非常に良好な演色性を実現しております。※3

減法混色の応用例・・・・・カラー写真(銀塩フィルム)
ネガカラーフィルムの特性

最近は専らデジタル写真全盛になってしまいましたが、つい十年程前まではフィルムを使用した銀塩写真の時代でした。ネガカラー写真では、フィルムと印画紙による減法混色がフルに活用されています。

ネガカラーフィルムには、フィルムベース材の上に青 ( B ) 、緑 ( G ) 、赤 ( R ) の感光材料が重ねて塗布された 3 層の感光層が設けられています。このフィルムをカメラに装填して撮影すると、カメラの撮影レンズを通過してフィルム上に到達した光が、その露光量に応じてこれらの感光層を感光させます。これを現像すると、カラーネガ(陰画)が得られます。

カラーネガフィルムの感光特性は、図のように、B 、G 、R の感光層がそれぞれ、可視域の短波長域、中波長域、長波長域に感度を持っています。フィルムを現像したときの各感光層の発色特性は、各感光層がそれぞれの補色※3に発色します。具体的には、青 ( B ) 感光層は黄 ( Y ) に、緑 ( G ) 感光層はマゼンタ ( M ) に、赤 ( R ) 感光層はシアン ( C ) に発色します。

実際には、フィルム上に結像された被写体からの光の分光分布と各感光層の感度との組合せで各感光層の感光量が決まることになります。

この撮影済のフィルムを現像すると、各感光層( B 、G 、R )の感光量に応じて各感光層の発色量( Y 、M 、C )が決まり、カラーネガ(陰画)が得られます。

ネガカラーフィルムによる印画紙への焼付け

次に、このカラーネガから印画紙に焼付け(および引き伸ばし)によって最終的なカラー写真(陽画)を作り出します。焼付け機は、撮影済みのカラーネガフィルムを白色光で照明し、ネガに記録された陰画の像を印画紙上に結像させます。

印画紙も、カラーネガフィルムと同様に、印画紙ベース材の表面に B 、G 、R の感光層が塗布されており、これを現像すると、各感光層はそれぞれの補色に発色するようになっています。この印画紙を現像すると、Y 、M 、C の発色により、陰画の陰画、すなわち陽画が得られることになります。

レモン(黄色)の色再現例

以上が、ネガカラーフィルムによるカラー写真の色再現なのですが、この説明だけでは、なかなか解りにくいところがあると思います。以下に、黄色のレモンを撮影した場合を例にとって、レモンの黄色が減法混色の活用によって、具体的にどのように色再現されるかを説明します。

(白色光源下で)黄色のレモンからの反射光は、可視域短波長 ( B ) は僅少で、中波長 ( G ) と長波長 ( R ) が主成分になっています( Y = G + R )ので、フィルムの G 、R の感光層が強く感光し、B の感光層は殆ど感光しません。これを現像すると、感光量の多い G と R の感光層がそれぞれマゼンタ ( M ) 、シアン ( C ) に発色し、B の感光層は殆んど発色せず無色透明になります。つまり、現像済のカラーネガフィルムのレモンの画像はマゼンタフィルタとシアンフィルタが重ねられた形になっています。

焼付け過程でこのカラーネガフィルムを白色光で照明すると、M と C のフィルタを共通に透過する短波長光( B )がネガフィルムを透過し、印画紙上に結像されます。従って印画紙の B 感光層のみが強く感光しますので、これを現像・定着処理すると、青 ( B ) の補色である黄 ( Y ) に発色することになり、レモンの黄色が陽画として得られることになります。

以上より判りますように、ネガカラー写真は、補色に発色したネガフィルムの 3 つの発色層( Y 、 M 、 C )の減法混色によって印画紙上に被写体の色を再現していることになります。

カラー印刷・・・・・ Y 、M 、C 版の他に墨版( K )が必要な理由

私たちの身の周りに氾濫しているカラー印刷は、減法混色を使用しています。パソコン用プリンターのインク切れで、新しいインクカートリッジに入れ替えた経験をお持ちの方も多いと思います。インクカートリッジには色料の三原色 Y 、M 、C の他に、 K(黒)※4が準備されており、この 4 色を装填することによってきれいなカラープリントが得られます。でも、Y 、M 、C を等量減法混色すれば原理的に黒になるはずなのに、なぜ別に K(黒)が必要なのでしょうか?

前回に説明しました三原色の分光特性は、理解し易いように模式的な特性で説明しました。例えば Y(黄)は、短波長域の透過率が 0 % 、中波長域および長波長域の透過率が 100 % という理想特性で、短波長域と中波長域の境界で透過率が不連続的・急峻に変化するものでした。

しかし実際の色料(インク)ではこのような特性のものは得られず、不透過の波長域でも透過率は数 % 、また透過波長域でも透過率は 100 % ではなく、また不透過波長域と透過波長域の境界は急峻に変化せずある波長範囲に亘って傾斜があります。

従って、現実のこれらの色料を減法混色すると、その結果は、どの波長域も全て透過率が低い平坦な特性になるのではなく、図のように総合分光透過率にある程度の凹凸が残ってしまうことになってしまいます。このような特性になってしまうと、「真っ黒」にはならず、どうしても若干の色味が残ってしまい、カラー印刷の結果に「引き締まった」感じが無くなってしまうのです。また、それを許容したとしても、一般の印刷物では黒の占める印刷面積割合が多いのが普通であるため、インクの使用量が増えてコストがかかりすぎるという問題も出てきます※5。そこで、全波長域に亘って透過率特性が低くて平坦な材料を用いた黒専用の墨版と呼ばれる版 ( K ) が必要になる訳です。

混色の説明図の色再現方法

混色について説明した書物などには、前回(第 16 回)の同時加法混色の原理説明で使用しました、B 、G 、R の色光の混色図が、掲載されていることがよく見かけられます。この混色図は、「同時加法混色」を説明するのが目的ではありますが、実際にはその説明図は書物に「印刷」されたものですから、減法混色によって表現されていることになります。

また、この連載をパソコンディスプレイでご覧になっている場合は、同時加法混色の原理図も減法混色の原理図もいずれも、次回に説明します「並置混色」によって表現していることになります。

注釈

※1

講演会やセミナーの会場で、プロジェクターでスクリーンに映し出された画像を、カメラで撮影している人を見かけることがあります。この時、フラッシュを焚いて撮影している人がいますが、これは、(マナー的にも問題がありますが)同時加法混色の原理を考えれば、適切な撮影とは言えません。スクリーン上では、プロジェクターからの BGR の色光が投射され、BGR 毎の放射照度分布が重ね合わされた結果として、その画像ができあがっています。そこへ、フラッシュの白色光(分光分布が全波長域に広がっている)を浴びせる訳ですから、スクリーン上では、本来の画像の色光とフラッシュの白色光との間で同時加法混色が起こることになり、その結果、コントラストが低下し、メリハリの無い写真になってしまいます。

※2 補色

異なる2種の有彩色を混色した結果が無彩色になる関係を補色(物理補色)の関係にある、といいます。色相環の反対側同士に位置する色を混色すると、概ね無彩色になることから、色相環で対向位置にある色同士のことを補色と呼ぶことも多いようです。ただし、色相環の対向色間の混色結果には、若干の「色味」が残ってしまい、厳密には補色の関係とは言い切れない場合もありますので、漠然とした意味で補色として扱われていると考えられます。また、ある色を数分間凝視した後、急にその色を消去すると、眼の残像として暫く補色が認められます。これを「心理補色」と言います。「物理補色」と「心理補色」は大雑把には似ていますが、厳密には一致してはいません。

※3 「白色」を示す分光分布

分光分布グラフからわかりますように、光源色として殆ど同じ白色を達成する「白色LED」であっても、その達成方式(同時加法混色の仕方)によって分光分布特性は様々です。マルチチップ方式(B+YあるいはB+G+R)や、シングルチップ方式の内の Blue - YAG 型( B 励起光 + Y 蛍光)による白色 LED の場合、「白色」と言っても可視域の分光分布特性にどうしてもかなりの凹凸が残ってしまうことになります。その結果、これらの分光分布に凹凸が目立つ「白色光」で照明された物体の色は、物体の特性(分光反射率特性)との組合せによっては、太陽や白熱電球などの光源で照明した場合と比べて、かなり異なった色の見え方になってしまう(演色性が劣る)場合があります。

※4「黒」を “ K ” で表わすのは?

「黒」は英語で “ Black ” ですので、“ B ” でもよさそうなのですが、加法混色の三原色の青が “ B ” ( Blue )ですので、“ B ” 以外の文字を充てる必要があります。日本語の「くろ」の “ K ” であるという話もありますが、外国でも “ K ” が使用されていることから、どうやらそうではないようです。“ Black ” の最後の “ K ” であるという説もあるようですが、実際には、墨版はカラー印刷の仕上がり品質を左右する重要な版( Key plate )である、ということから “ K ” という文字が充てられたのではないか、というのが有力な説のようです。

※5

その他に、「黒」を作るため 3 種のインクを重ね塗りすることになり、インクの乾燥時間がかかってしまうことや、重ね塗りのために表面のインク層が剥離したりする印刷品質上の問題もあるようです。

混色(その2)
・・・・・同時加法混色、減法混色の応用例・・・・・

光と色の話 第一部

光と色の話 第一部

第17回 混色(その2)

・・・・・同時加法混色、減法混色の応用例・・・・・

はじめに

前回(第 16 回)は、同時加法混色および減法混色の原理について、その考え方を模式的に説明致しました。今回は、これらの原理が実際にどのようなものに応用されているか、例を挙げてお話してみます。原理説明では、三原色(加法混色では B 、G 、R 、減法混色では Y 、M 、C )で説明しましたが、実際の応用では、必ずしも三原色の混色に限定する必要は無く、任意の異なる色同士に対してもこれらの混色原理は適用されます※1。今回は、同時加法混色の応用例として、白色発光ダイオード( LED )を、減法混色の応用例としてカラー写真(銀塩写真)とカラー印刷を採り上げてみましょう。

同時加法混色の応用例
白色 LED

20 世紀末に青色LEDが発明され、それまでに実用化されていた緑、赤の LED を合わせて加法混色の三原色が揃ったことにより、私たちの日常生活に直結した LED の応用が一気に加速し、今日も急速に開発・改善・普及が進展しています。特に LED は従来型光源に比較して低消費電力・長寿命という特長もあって、白色 LED が大きな期待をもって世に受け入れられつつあります。弊社は LED 照明装置の専門メーカーとして、これまで白色 LED を用いた照明製品群を多数世の中に送り出してきています。

白色 LED の原理

LED は、本来はその分光分布が狭い波長範囲に集中しているため、単色光に近い光源(可視域では有色光源)です。従って、可視域全体(少なくとも B 、G 、R )に亘ってエネルギー成分を持つ必要がある白色に対しては、特別な「仕掛け」を設けなければ実現できません。この「仕掛け」には幾通りかの方式があります。

① マルチチップ LED 方式

複数色の LED チップを同一パッケージ内に隣接実装して発光させ、同時加法混色により白色を得る方式です。

【補色方式】

補色関係にある二色、例えば、青 ( B ) と黄 ( Y )の LED チップを組み合わせる方式です。※2

【三原色 BGR 方式】

三原色の青 ( B ) 、緑 ( G ) 、赤 ( R ) の LED チップを使用し、同時に光らせて混色させることによって白色を得ます。

② シングルチップLED方式(蛍光励起方式)

青またはそれよりも波長の短い LED(紫LEDや近紫外 LED )と蛍光体との組合せで白色を得る方式です。蛍光体に、ある波長の光を照射すると、照射光(これを励起光と呼びます)の波長より長い波長の蛍光が発生します。励起光源の LED を直接(あるいはその直前を)蛍光体で覆うことによって、蛍光と蛍光体層を透過した励起光の同時加法混色により白色が達成されます。

【補色蛍光方式(青励起光+黄蛍光)】

青LEDを蛍光体に照射して黄色の蛍光を発生させ、補色関係(青と黄)の同時加法混色によって、白を実現しています

( B + Y = W ) 。エネルギー変換効率が良く、これまでの白色 LED はこの方式が主流でした。青 LED の励起光でイットリウム・アルミニウム・ガーネット( Yttrium Aluminum Garnet )という蛍光体により黄色の蛍光を発生させることから通称、Blue - YAG 型とも呼ばれています。

【三原色蛍光方式(紫 or 近紫外励起光 + BGR 蛍光)】

励起光として、近紫外あるいは紫色の LED を用い、B 、G 、R の蛍光を発生させる 3 種の蛍光体で励起用 LED を覆ったものです。

当社の「自然光 LED 」は、波長 405 nm の紫色 LED を励起光源として、B 、G 、R の 3 種の蛍光を発生させる蛍光体を用いることによって、可視域全域に亘っての連続スペクトルを実現しています。分光分布に他の方式による白色 LED のような極端な凹凸が無いことから、非常に良好な演色性を実現しております。※3

減法混色の応用例・・・・・カラー写真(銀塩フィルム)
ネガカラーフィルムの特性

最近は専らデジタル写真全盛になってしまいましたが、つい十年程前まではフィルムを使用した銀塩写真の時代でした。ネガカラー写真では、フィルムと印画紙による減法混色がフルに活用されています。

ネガカラーフィルムには、フィルムベース材の上に青 ( B ) 、緑 ( G ) 、赤 ( R ) の感光材料が重ねて塗布された 3 層の感光層が設けられています。このフィルムをカメラに装填して撮影すると、カメラの撮影レンズを通過してフィルム上に到達した光が、その露光量に応じてこれらの感光層を感光させます。これを現像すると、カラーネガ(陰画)が得られます。

カラーネガフィルムの感光特性は、図のように、B 、G 、R の感光層がそれぞれ、可視域の短波長域、中波長域、長波長域に感度を持っています。フィルムを現像したときの各感光層の発色特性は、各感光層がそれぞれの補色※3に発色します。具体的には、青 ( B ) 感光層は黄 ( Y ) に、緑 ( G ) 感光層はマゼンタ ( M ) に、赤 ( R ) 感光層はシアン ( C ) に発色します。

実際には、フィルム上に結像された被写体からの光の分光分布と各感光層の感度との組合せで各感光層の感光量が決まることになります。

この撮影済のフィルムを現像すると、各感光層( B 、G 、R )の感光量に応じて各感光層の発色量( Y 、M 、C )が決まり、カラーネガ(陰画)が得られます。

ネガカラーフィルムによる印画紙への焼付け

次に、このカラーネガから印画紙に焼付け(および引き伸ばし)によって最終的なカラー写真(陽画)を作り出します。焼付け機は、撮影済みのカラーネガフィルムを白色光で照明し、ネガに記録された陰画の像を印画紙上に結像させます。

印画紙も、カラーネガフィルムと同様に、印画紙ベース材の表面に B 、G 、R の感光層が塗布されており、これを現像すると、各感光層はそれぞれの補色に発色するようになっています。この印画紙を現像すると、Y 、M 、C の発色により、陰画の陰画、すなわち陽画が得られることになります。

レモン(黄色)の色再現例

以上が、ネガカラーフィルムによるカラー写真の色再現なのですが、この説明だけでは、なかなか解りにくいところがあると思います。以下に、黄色のレモンを撮影した場合を例にとって、レモンの黄色が減法混色の活用によって、具体的にどのように色再現されるかを説明します。

(白色光源下で)黄色のレモンからの反射光は、可視域短波長 ( B ) は僅少で、中波長 ( G ) と長波長 ( R ) が主成分になっています( Y = G + R )ので、フィルムの G 、R の感光層が強く感光し、B の感光層は殆ど感光しません。これを現像すると、感光量の多い G と R の感光層がそれぞれマゼンタ ( M ) 、シアン ( C ) に発色し、B の感光層は殆んど発色せず無色透明になります。つまり、現像済のカラーネガフィルムのレモンの画像はマゼンタフィルタとシアンフィルタが重ねられた形になっています。

焼付け過程でこのカラーネガフィルムを白色光で照明すると、M と C のフィルタを共通に透過する短波長光( B )がネガフィルムを透過し、印画紙上に結像されます。従って印画紙の B 感光層のみが強く感光しますので、これを現像・定着処理すると、青 ( B ) の補色である黄 ( Y ) に発色することになり、レモンの黄色が陽画として得られることになります。

以上より判りますように、ネガカラー写真は、補色に発色したネガフィルムの 3 つの発色層( Y 、 M 、 C )の減法混色によって印画紙上に被写体の色を再現していることになります。

カラー印刷・・・・・ Y 、M 、C 版の他に墨版( K )が必要な理由

私たちの身の周りに氾濫しているカラー印刷は、減法混色を使用しています。パソコン用プリンターのインク切れで、新しいインクカートリッジに入れ替えた経験をお持ちの方も多いと思います。インクカートリッジには色料の三原色 Y 、M 、C の他に、 K(黒)※4が準備されており、この 4 色を装填することによってきれいなカラープリントが得られます。でも、Y 、M 、C を等量減法混色すれば原理的に黒になるはずなのに、なぜ別に K(黒)が必要なのでしょうか?

前回に説明しました三原色の分光特性は、理解し易いように模式的な特性で説明しました。例えば Y(黄)は、短波長域の透過率が 0 % 、中波長域および長波長域の透過率が 100 % という理想特性で、短波長域と中波長域の境界で透過率が不連続的・急峻に変化するものでした。

しかし実際の色料(インク)ではこのような特性のものは得られず、不透過の波長域でも透過率は数 % 、また透過波長域でも透過率は 100 % ではなく、また不透過波長域と透過波長域の境界は急峻に変化せずある波長範囲に亘って傾斜があります。

従って、現実のこれらの色料を減法混色すると、その結果は、どの波長域も全て透過率が低い平坦な特性になるのではなく、図のように総合分光透過率にある程度の凹凸が残ってしまうことになってしまいます。このような特性になってしまうと、「真っ黒」にはならず、どうしても若干の色味が残ってしまい、カラー印刷の結果に「引き締まった」感じが無くなってしまうのです。また、それを許容したとしても、一般の印刷物では黒の占める印刷面積割合が多いのが普通であるため、インクの使用量が増えてコストがかかりすぎるという問題も出てきます※5。そこで、全波長域に亘って透過率特性が低くて平坦な材料を用いた黒専用の墨版と呼ばれる版 ( K ) が必要になる訳です。

混色の説明図の色再現方法

混色について説明した書物などには、前回(第 16 回)の同時加法混色の原理説明で使用しました、B 、G 、R の色光の混色図が、掲載されていることがよく見かけられます。この混色図は、「同時加法混色」を説明するのが目的ではありますが、実際にはその説明図は書物に「印刷」されたものですから、減法混色によって表現されていることになります。

また、この連載をパソコンディスプレイでご覧になっている場合は、同時加法混色の原理図も減法混色の原理図もいずれも、次回に説明します「並置混色」によって表現していることになります。

注釈

※1

講演会やセミナーの会場で、プロジェクターでスクリーンに映し出された画像を、カメラで撮影している人を見かけることがあります。この時、フラッシュを焚いて撮影している人がいますが、これは、(マナー的にも問題がありますが)同時加法混色の原理を考えれば、適切な撮影とは言えません。スクリーン上では、プロジェクターからの BGR の色光が投射され、BGR 毎の放射照度分布が重ね合わされた結果として、その画像ができあがっています。そこへ、フラッシュの白色光(分光分布が全波長域に広がっている)を浴びせる訳ですから、スクリーン上では、本来の画像の色光とフラッシュの白色光との間で同時加法混色が起こることになり、その結果、コントラストが低下し、メリハリの無い写真になってしまいます。

※2 補色

異なる2種の有彩色を混色した結果が無彩色になる関係を補色(物理補色)の関係にある、といいます。色相環の反対側同士に位置する色を混色すると、概ね無彩色になることから、色相環で対向位置にある色同士のことを補色と呼ぶことも多いようです。ただし、色相環の対向色間の混色結果には、若干の「色味」が残ってしまい、厳密には補色の関係とは言い切れない場合もありますので、漠然とした意味で補色として扱われていると考えられます。また、ある色を数分間凝視した後、急にその色を消去すると、眼の残像として暫く補色が認められます。これを「心理補色」と言います。「物理補色」と「心理補色」は大雑把には似ていますが、厳密には一致してはいません。

※3 「白色」を示す分光分布

分光分布グラフからわかりますように、光源色として殆ど同じ白色を達成する「白色LED」であっても、その達成方式(同時加法混色の仕方)によって分光分布特性は様々です。マルチチップ方式(B+YあるいはB+G+R)や、シングルチップ方式の内の Blue - YAG 型( B 励起光 + Y 蛍光)による白色 LED の場合、「白色」と言っても可視域の分光分布特性にどうしてもかなりの凹凸が残ってしまうことになります。その結果、これらの分光分布に凹凸が目立つ「白色光」で照明された物体の色は、物体の特性(分光反射率特性)との組合せによっては、太陽や白熱電球などの光源で照明した場合と比べて、かなり異なった色の見え方になってしまう(演色性が劣る)場合があります。

※4「黒」を “ K ” で表わすのは?

「黒」は英語で “ Black ” ですので、“ B ” でもよさそうなのですが、加法混色の三原色の青が “ B ” ( Blue )ですので、“ B ” 以外の文字を充てる必要があります。日本語の「くろ」の “ K ” であるという話もありますが、外国でも “ K ” が使用されていることから、どうやらそうではないようです。“ Black ” の最後の “ K ” であるという説もあるようですが、実際には、墨版はカラー印刷の仕上がり品質を左右する重要な版( Key plate )である、ということから “ K ” という文字が充てられたのではないか、というのが有力な説のようです。

※5

その他に、「黒」を作るため 3 種のインクを重ね塗りすることになり、インクの乾燥時間がかかってしまうことや、重ね塗りのために表面のインク層が剥離したりする印刷品質上の問題もあるようです。

混色(その2)
・・・・・同時加法混色、減法混色の応用例・・・・・

Q1.参考になりましたか?
Q2.次回連載を期待されますか?
Q3.連載の感想がありましたらご記入ください。

アンケートにご協力いただきありがとうございました。